1、日韓基本条約の締結
(1)、意義
・1951年にサンフランシスコ平和条約が締結される。これ以後、日本はアメリカの反共同盟の強化という要望に沿って、韓国との間で戦前の植民地支配の問題や在日朝鮮人の法的地位などの問題を解決するために断続的に日韓会談が行われる。特に、李承晩政権を打倒した1960年の四・一九革命後に、大統領に就任した朴正煕(パクチョンヒ)は、朝鮮戦争から復興するために日本からの経済協力がほしかったので、日韓会談が急速に進められた。
(2)、日韓基本条約の締結
・1965年に日韓基本条約、日韓漁業協定、日韓請求権並びに経済協力協定、日韓法的地位協定、文化財及び文化協力に関する協定の1条約4協定が締結された。
2、在日朝鮮人の法的地位
(1)、意義
・日韓法的地位協定により、「協定の実施に伴う出入国管理局特別法」が制定され、在日韓国人に永住権(協定永住権)が認められた。
(2)、対象者
・協定永住の対象者は「大韓民国国民」である。韓国政府は朝鮮半島の全土を統治する権限を持っているとしているので、外国人登録の国籍欄が「朝鮮」であろうと「韓国」であろうと、日本にいる在日コリアンはすべて「大韓民国国民」であることになる。よって、在日コリアンはすべて協定永住の対象者となった。しかし、協定永住を取得すするためには、申請の際に韓国政府発行のパスポート、あるいはこれに代わる在外国民登録証または大韓民国の国籍を有している旨の陳述書の提出が求められたので、「朝鮮」籍者の多くは政治的な対立から協定永住を申請しなかった。
(3)、期間
①、意義
・日本と韓国両政府の話し合いによって、協定永住の対象者は二代目までとされ、三代目以後は25年が経過するまでに日本と韓国両政府が再び協議をする、とされた。
②、協定永住一代目
ア)、戦前から協定永住申請時まで引き続いて日本に居住している人
イ)、ア)の者の直系卑属として協定の効力発生時から5年以内(1971年1月16日)までに日本で出生し、日本に居住している人
③、協定永住二代目
・協定永住一代目の子として1971年1月17日以後に日本で出生した人
(4)、協定永住者に認められること
①、退去強制事由が縮小される
参照)、日韓法的地位協定第3条
第一条の規定に従い日本国で永住することを許可されている大韓民国国民は、この協定の効力発生の日以後の行為により次のいずれかに該当することとなつた場合を除くほか、日本国からの退去を強制されない。
(a)日本国において内乱に関する罪又は外患に関する罪により禁錮以上の刑に処せられた者(執行猶予の言渡しを受けた者及び内乱に附和随行したことにより刑に処せられた者を除く。)
(b)日本国において国交に関する罪により禁錮以上の刑に処せられた者及び外国の元首、外交使節又はその公館に対する犯罪行為により禁錮以上の刑に処せられ、日本国の外交上の重大な利益を害した者
(c)営利の目的をもつて麻薬類の取締りに関する日本国の法令に違反して無期又は三年以上の懲役又は禁錮に処せられた者(執行猶予の言渡しを受けた者を除く。)及び麻薬類の取締りに関する日本国の法令に違反して三回(ただし、この協定の効力発生の日の前の行為により三回以上刑に処せられた者については二回)以上刑に処せられた者
(d)日本国の法令に違反して無期又は七年をこえる懲役又は禁錮に処せられた者
②、教育、生活保護及び国民健康保険に関して妥当な考慮を払う
参照)、日韓法的地位協定第4条
日本国政府は、次に掲げる事項について、妥当な考慮を払うものとする。
(a)第一条の規定に従い日本国で永住することを許可されている大韓民国国民に対する日本国における教育、生活保護及び国民健康保険に関する事項
(b)第一条の規定に従い日本国で永住することを許可されている大韓民国国民(同条の規定に従い永住許可の申請をする資格を有している者を含む。)が日本国で永住する意思を放棄して大韓民国に帰国する場合における財産の携行及び資金の大韓民国への送金に関する事項
③、①と②以外はすべて外国人に同様に適用される日本国の法令が適用される
(5)、日韓法的地位協定第4条の「教育に関して妥当な考慮を払う」について
①、意義
・在日コリアンに対する日本政府の教育の方針は、日本社会に同化させることであった。よって、民族学校については法的認知を与えず、上級学校への入学資格や私学助成その他で、行政上、財政上不利益な地位に置くことにより、在日コリアンの日本人学校への入学を促進させようとした。よって、日韓法的地位協定第4条における教育面での「妥当な考慮」とは、協定永住許可者が日本の公立の小学校または中学校へ入学することを希望する場合は、入学が認められるよう必要な措置をとり、中学校を卒業した場合は上級学校への入学資格を認める、というものであった。
②、昭和40年12月28日付け文初財464号
・文部事務次官の各都道府県教育委員会および各都道府県知事宛の通達によって、在日コリアンは協定永住許可者であると否とを問わずに、公立の小中学校への入学および高校への入学資格を認め、授業料の徴収免除、教科書無償措置、就学援助措置につき日本国民と同等に扱うとした。しかし、永住を許可された者及びそれ以外の朝鮮人教育については、日本人子弟と同様に取り扱うものとし、教育課程の編成・実施については特別扱いをすべきではないともした。
③、昭和40年12月28日付け文普振第210号
・文部事務次官の各都道府県教育委員会および各都道府県知事宛の通達によって、阪神教育闘争以後1949年に民族学校が閉鎖された際の妥協措置としてとられた、在日コリアンが学ぶことができる公立小学校分校や民族学校を、今後は廃止あるいは新たな設置を認めないことと、朝鮮人学校は学校教育法第1条の学校としても各種学校としても認可すべきではなく、すでに1条校あるいは各種学校として認可されている朝鮮人学校については、報告・届出等の義務を励行させるものとした。
cf.学校教育法第1条は「この法律で、学校とは、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校とする」と規定し、ここに規定されている学校が1条校として、私学助成金をはじめとした行政支援を厚く受けることができる。東京韓国学校、朝鮮大学校を含むすべての朝鮮学校は1条校ではなく各種学校であることから、行政支援が薄い。
3、戦後補償問題
(1)、意義
①、意義
・戦後補償問題を規定したのが、日韓請求権並びに経済協力協定である。
②、日韓請求権並びに経済協力協定第2条
1 両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。
2 この条の規定は、次のもの(この協定の署名の日までにそれぞれの締約国が執つた特別の措置の対象となつたものを除く。)に影響を及ぼすものではない。
(a)一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益
(b)一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつて千九百四十五年八月十五日以後における通常の接触の過程において取得され又は他方の締約国の管轄の下にはいつたもの
3 2の規定に従うことを条件として、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。
(2)、問題点
①、日本政府の立場
・日本政府は、在日韓国人の戦後補償の問題は、日韓請求権並びに経済協力協定第2条第1項の「完全かつ最終的に解決」に含まれていると解した。よって、日本国内の戦後補償立法には国籍条項をつけて、在日韓国人は排除した。
②、韓国政府の立場
・韓国政府は、在日韓国人の戦後補償の問題を、日韓請求権並びに経済協力協定第2条第2項(a)の「一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるもの」に在日韓国人は含まれているので、日韓請求権並びに経済協力協定第2条第1項の「完全かつ最終的に解決」の例外であると解した。よって、日韓請求権並びに経済協力協定発効後に韓国政府は「請求権資金の運用及び管理に関する法律」「対日民間請求権申告に関する法律」「対日民間請求権補償に関する法律」などを制定して、韓国人に対する補償を実施してきたが、在日韓国人はこの補償対象からは除外した。
(3)、立法による解決
・日本政府からも韓国政府からも、在日韓国人が戦後補償を受けることができない問題については、2000年に「平和条約国籍離脱者等である戦没者遺族等に対する弔慰金等の支給に関する法律」が制定されることによって、立法による解決がなされた。これにより、旧植民地出身重度戦傷病者に対しては、見舞金及び老後生活設計支給給付金、遺族には弔慰金が支給された。
<参考文献>
『歴史教科書 在日コリアンの歴史』(在日本大韓民国民団中央民族教育委員会、明石書店、2006)
(1)、意義
・1951年にサンフランシスコ平和条約が締結される。これ以後、日本はアメリカの反共同盟の強化という要望に沿って、韓国との間で戦前の植民地支配の問題や在日朝鮮人の法的地位などの問題を解決するために断続的に日韓会談が行われる。特に、李承晩政権を打倒した1960年の四・一九革命後に、大統領に就任した朴正煕(パクチョンヒ)は、朝鮮戦争から復興するために日本からの経済協力がほしかったので、日韓会談が急速に進められた。
(2)、日韓基本条約の締結
・1965年に日韓基本条約、日韓漁業協定、日韓請求権並びに経済協力協定、日韓法的地位協定、文化財及び文化協力に関する協定の1条約4協定が締結された。
2、在日朝鮮人の法的地位
(1)、意義
・日韓法的地位協定により、「協定の実施に伴う出入国管理局特別法」が制定され、在日韓国人に永住権(協定永住権)が認められた。
(2)、対象者
・協定永住の対象者は「大韓民国国民」である。韓国政府は朝鮮半島の全土を統治する権限を持っているとしているので、外国人登録の国籍欄が「朝鮮」であろうと「韓国」であろうと、日本にいる在日コリアンはすべて「大韓民国国民」であることになる。よって、在日コリアンはすべて協定永住の対象者となった。しかし、協定永住を取得すするためには、申請の際に韓国政府発行のパスポート、あるいはこれに代わる在外国民登録証または大韓民国の国籍を有している旨の陳述書の提出が求められたので、「朝鮮」籍者の多くは政治的な対立から協定永住を申請しなかった。
(3)、期間
①、意義
・日本と韓国両政府の話し合いによって、協定永住の対象者は二代目までとされ、三代目以後は25年が経過するまでに日本と韓国両政府が再び協議をする、とされた。
②、協定永住一代目
ア)、戦前から協定永住申請時まで引き続いて日本に居住している人
イ)、ア)の者の直系卑属として協定の効力発生時から5年以内(1971年1月16日)までに日本で出生し、日本に居住している人
③、協定永住二代目
・協定永住一代目の子として1971年1月17日以後に日本で出生した人
(4)、協定永住者に認められること
①、退去強制事由が縮小される
参照)、日韓法的地位協定第3条
第一条の規定に従い日本国で永住することを許可されている大韓民国国民は、この協定の効力発生の日以後の行為により次のいずれかに該当することとなつた場合を除くほか、日本国からの退去を強制されない。
(a)日本国において内乱に関する罪又は外患に関する罪により禁錮以上の刑に処せられた者(執行猶予の言渡しを受けた者及び内乱に附和随行したことにより刑に処せられた者を除く。)
(b)日本国において国交に関する罪により禁錮以上の刑に処せられた者及び外国の元首、外交使節又はその公館に対する犯罪行為により禁錮以上の刑に処せられ、日本国の外交上の重大な利益を害した者
(c)営利の目的をもつて麻薬類の取締りに関する日本国の法令に違反して無期又は三年以上の懲役又は禁錮に処せられた者(執行猶予の言渡しを受けた者を除く。)及び麻薬類の取締りに関する日本国の法令に違反して三回(ただし、この協定の効力発生の日の前の行為により三回以上刑に処せられた者については二回)以上刑に処せられた者
(d)日本国の法令に違反して無期又は七年をこえる懲役又は禁錮に処せられた者
②、教育、生活保護及び国民健康保険に関して妥当な考慮を払う
参照)、日韓法的地位協定第4条
日本国政府は、次に掲げる事項について、妥当な考慮を払うものとする。
(a)第一条の規定に従い日本国で永住することを許可されている大韓民国国民に対する日本国における教育、生活保護及び国民健康保険に関する事項
(b)第一条の規定に従い日本国で永住することを許可されている大韓民国国民(同条の規定に従い永住許可の申請をする資格を有している者を含む。)が日本国で永住する意思を放棄して大韓民国に帰国する場合における財産の携行及び資金の大韓民国への送金に関する事項
③、①と②以外はすべて外国人に同様に適用される日本国の法令が適用される
(5)、日韓法的地位協定第4条の「教育に関して妥当な考慮を払う」について
①、意義
・在日コリアンに対する日本政府の教育の方針は、日本社会に同化させることであった。よって、民族学校については法的認知を与えず、上級学校への入学資格や私学助成その他で、行政上、財政上不利益な地位に置くことにより、在日コリアンの日本人学校への入学を促進させようとした。よって、日韓法的地位協定第4条における教育面での「妥当な考慮」とは、協定永住許可者が日本の公立の小学校または中学校へ入学することを希望する場合は、入学が認められるよう必要な措置をとり、中学校を卒業した場合は上級学校への入学資格を認める、というものであった。
②、昭和40年12月28日付け文初財464号
・文部事務次官の各都道府県教育委員会および各都道府県知事宛の通達によって、在日コリアンは協定永住許可者であると否とを問わずに、公立の小中学校への入学および高校への入学資格を認め、授業料の徴収免除、教科書無償措置、就学援助措置につき日本国民と同等に扱うとした。しかし、永住を許可された者及びそれ以外の朝鮮人教育については、日本人子弟と同様に取り扱うものとし、教育課程の編成・実施については特別扱いをすべきではないともした。
③、昭和40年12月28日付け文普振第210号
・文部事務次官の各都道府県教育委員会および各都道府県知事宛の通達によって、阪神教育闘争以後1949年に民族学校が閉鎖された際の妥協措置としてとられた、在日コリアンが学ぶことができる公立小学校分校や民族学校を、今後は廃止あるいは新たな設置を認めないことと、朝鮮人学校は学校教育法第1条の学校としても各種学校としても認可すべきではなく、すでに1条校あるいは各種学校として認可されている朝鮮人学校については、報告・届出等の義務を励行させるものとした。
cf.学校教育法第1条は「この法律で、学校とは、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校とする」と規定し、ここに規定されている学校が1条校として、私学助成金をはじめとした行政支援を厚く受けることができる。東京韓国学校、朝鮮大学校を含むすべての朝鮮学校は1条校ではなく各種学校であることから、行政支援が薄い。
3、戦後補償問題
(1)、意義
①、意義
・戦後補償問題を規定したのが、日韓請求権並びに経済協力協定である。
②、日韓請求権並びに経済協力協定第2条
1 両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。
2 この条の規定は、次のもの(この協定の署名の日までにそれぞれの締約国が執つた特別の措置の対象となつたものを除く。)に影響を及ぼすものではない。
(a)一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益
(b)一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつて千九百四十五年八月十五日以後における通常の接触の過程において取得され又は他方の締約国の管轄の下にはいつたもの
3 2の規定に従うことを条件として、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。
(2)、問題点
①、日本政府の立場
・日本政府は、在日韓国人の戦後補償の問題は、日韓請求権並びに経済協力協定第2条第1項の「完全かつ最終的に解決」に含まれていると解した。よって、日本国内の戦後補償立法には国籍条項をつけて、在日韓国人は排除した。
②、韓国政府の立場
・韓国政府は、在日韓国人の戦後補償の問題を、日韓請求権並びに経済協力協定第2条第2項(a)の「一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるもの」に在日韓国人は含まれているので、日韓請求権並びに経済協力協定第2条第1項の「完全かつ最終的に解決」の例外であると解した。よって、日韓請求権並びに経済協力協定発効後に韓国政府は「請求権資金の運用及び管理に関する法律」「対日民間請求権申告に関する法律」「対日民間請求権補償に関する法律」などを制定して、韓国人に対する補償を実施してきたが、在日韓国人はこの補償対象からは除外した。
(3)、立法による解決
・日本政府からも韓国政府からも、在日韓国人が戦後補償を受けることができない問題については、2000年に「平和条約国籍離脱者等である戦没者遺族等に対する弔慰金等の支給に関する法律」が制定されることによって、立法による解決がなされた。これにより、旧植民地出身重度戦傷病者に対しては、見舞金及び老後生活設計支給給付金、遺族には弔慰金が支給された。
<参考文献>
『歴史教科書 在日コリアンの歴史』(在日本大韓民国民団中央民族教育委員会、明石書店、2006)