1、意義
・白木屋は創業300年を誇る老舗のデパートであった。しかし、昭和24年(1949)に当時経営不振であった白木屋を、東急の総帥五島慶太一派の横井英樹が買収を画策する。白木屋社長鏡山忠男は大物総会屋の久保祐三郎に防戦を依頼、横井側でも大物総会屋の田島将光を後ろ立てとしており、久保と田島の対決となった事件である。
2、経緯
(1)、横井英樹の後ろ立てに大物総会屋田島将光がつく
・大物総会屋の田島将光は、以前白木屋の立て直し問題で大丸の合併案を白木屋社長鏡山忠男に示したが、居留守を使われて追い払われた経験があった。よって、総会屋の田島は横井の後ろ盾について白木屋乗っ取りを支援することにした。
(2)、横井英樹が株を買い占める
・横井は白木屋株を買い集め、昭和27年9月ころから白木屋株が急激な値上がりをする。これに対して白木屋社長であった鏡山忠男も防戦をしたことから、昭和28年1月には白木屋株は約3倍ほどに暴騰した。
(3)、白木屋側に大物総会屋久保祐三郎がつく
・白木屋社長鏡山忠男は、かねてからの知人であった大物総会屋久保祐三郎に防戦を依頼し、さらに総会屋の久保は後に住吉一家三代目になる阿部重作も引き入れた。
(4)、白木屋第70期定時株主総会に向けての対策
・両陣営は決戦の日である株主総会に向けて、株の買い集めや委任状集めを行ったり、陣営の切り崩しをしたり、虚々実々に駆け引きを行った。
(5)、白木屋第70期定時株主総会
①、意義
・昭和29年3月31日、白木屋第70期定時株主総会が中央区浜町になる中央クラブで開催された。議長は白木屋社長の鏡山忠男がつとめ、全国から総会屋、暴力団関係者、右翼関係者が集結した。
②、委任状の点検
・株主からの委任状を点検すべきであるという提案によって、両陣営立合いのもとに点検を行った。その結果、会社側提出の委任状は196万票、横井側提出の委任状は137万票となり、合計333万票となった。しかし、白木屋の発行済み株式数は400万株でその中に議決権停止の仮処分をうけている横井側の102万株が含まれているので委任状の総数は298万票以内でなければならず、点検された委任状は40万票近くも多すぎることとなった。
③、流会へ
・会場は明らかに二重に提出された委任状があることから騒然となり、結局総会は流会とし、昭和29年4月2日に千代田区の東京会館で継続総会を開くこととなった。
(6)、東京会館が会場を提供しない旨を通知する
・白木屋の総会には多数の暴力団関係者や右翼関係者が動員されるという噂がたったことから、会場として予定されていた東京会館は白木屋に対して継続総会の会場に提供しない旨を通知してきた。
(7)、白木屋側の第70期定時株主総会
①、中央クラブでの株主総会開催
・東京会館に会場使用を断られた白木屋側は、急きょ中央区の中央クラブを会場とし、その旨を夕刊新聞に公告し、東京会館の正面入り口にも掲示を張り出した。
②、横井側が総会が成立しない旨を主張する
・白木屋側の鏡山社長が議長として継続総会の開会を宣言すると、横井側の株主達はすぐに「会場変更手続き」や「鏡山社長側が株主の名義書き換え期間中に強引に書き換えを行った70万株余の無効」を指摘し、総会は成立しないと妨害を図った。
③、白木屋側鏡山社長の強引な総会運営
・総会屋の久保を中心とする白木屋側株主達が鏡山社長の議事運営を助け、
ア)、総会が成立する旨
イ)、第一号議案 計算書類の承認は可決される旨
ウ)、横井側から提出された累積投票の請求は成立せず、取締役及び監査役の選任は普通決議により選任する旨
エ)、第二号議案 具体的な取締役や監査役の選任
オ)、第三号議案 定款一部変更の件
と一気に議事を終了させた。
④、横井側の総退場
・横井側の株主達はこの白木屋側の鏡山社長の強引な総会運営に激怒し、怒号を残して総退場を決行した。
⑤、白木屋側の勝利?
・総会を乗り切った白木屋側は鏡山社長と総会屋の久保を中心に勝利をねぎらった。しかし、この総会に総大将である横井英樹と大物総会屋田島将光の姿はなかった。彼らは、この総会と同時刻に元の東京会館で総会を開催していたのである。
(8)、横井側の第70期定時株主総会
①、東京会館での株主総会
・横井英樹と大物総会屋田島将光は、会場の変更は総会の決議以外には認められないとして、白木屋側が中央クラブで総会を開催している同時刻に東京会館で十数名が出席して白木屋継続総会を開催した。これは、大物総会屋の田島の策であり、田島は白木屋側が東京会館の使用を拒否された時に別名で会場を予約していたのであった。よって、白木屋側が中央クラブで開催した総会に出席した横井側の株主達は総会を混乱させ時間を引き延ばすために送り込まれたものであった。
②、大物総会屋田島の手際よい議事進行
・田島は一人で手際よく議事を進行させ、
ア)、第一号議案 計算書類の承認は否決して検査役5名を選任して調査することとする旨
イ)、第二号議案 具体的な取締役や監査役の選任については、選挙の形式を省略し議長の指名によって選任手続きにかえることとし、議長の中沢某が横井英樹他を役員に選任していった。
ウ)、第三号議案 定款変更は全面的に反対する旨
を審議し、わずか10数分で総会を終えてしまった。さらに、この後取締役会を開催して横井を代表取締役に選任した。
③、登記の申請を済ませる
・大物総会屋の田島は株主総会と取締役会を終えるとすぐに日本橋法務局へ行き、議事録を添付して新しい役員を登記してしまった。
(9)、訴訟合戦
・白木屋側が株主総会と取締役会終了後に登記を申請しようとしてもできなかった。この後、白木屋側と横井側は訴訟合戦をして事態は全く進展しなくなった。
(10)、紛争の帰着
・最終的に、横井英樹は白木屋の社長に就任することなく所有していた株式をすべて東急の五島慶太に譲って手を引き、白木屋の鏡山社長も社長の座を追われた。白木屋は結局東急の傘下に収まった。
<参考文献>
『総会屋の100年』(神田豊晴、リッチマインド、1991)
・白木屋は創業300年を誇る老舗のデパートであった。しかし、昭和24年(1949)に当時経営不振であった白木屋を、東急の総帥五島慶太一派の横井英樹が買収を画策する。白木屋社長鏡山忠男は大物総会屋の久保祐三郎に防戦を依頼、横井側でも大物総会屋の田島将光を後ろ立てとしており、久保と田島の対決となった事件である。
2、経緯
(1)、横井英樹の後ろ立てに大物総会屋田島将光がつく
・大物総会屋の田島将光は、以前白木屋の立て直し問題で大丸の合併案を白木屋社長鏡山忠男に示したが、居留守を使われて追い払われた経験があった。よって、総会屋の田島は横井の後ろ盾について白木屋乗っ取りを支援することにした。
(2)、横井英樹が株を買い占める
・横井は白木屋株を買い集め、昭和27年9月ころから白木屋株が急激な値上がりをする。これに対して白木屋社長であった鏡山忠男も防戦をしたことから、昭和28年1月には白木屋株は約3倍ほどに暴騰した。
(3)、白木屋側に大物総会屋久保祐三郎がつく
・白木屋社長鏡山忠男は、かねてからの知人であった大物総会屋久保祐三郎に防戦を依頼し、さらに総会屋の久保は後に住吉一家三代目になる阿部重作も引き入れた。
(4)、白木屋第70期定時株主総会に向けての対策
・両陣営は決戦の日である株主総会に向けて、株の買い集めや委任状集めを行ったり、陣営の切り崩しをしたり、虚々実々に駆け引きを行った。
(5)、白木屋第70期定時株主総会
①、意義
・昭和29年3月31日、白木屋第70期定時株主総会が中央区浜町になる中央クラブで開催された。議長は白木屋社長の鏡山忠男がつとめ、全国から総会屋、暴力団関係者、右翼関係者が集結した。
②、委任状の点検
・株主からの委任状を点検すべきであるという提案によって、両陣営立合いのもとに点検を行った。その結果、会社側提出の委任状は196万票、横井側提出の委任状は137万票となり、合計333万票となった。しかし、白木屋の発行済み株式数は400万株でその中に議決権停止の仮処分をうけている横井側の102万株が含まれているので委任状の総数は298万票以内でなければならず、点検された委任状は40万票近くも多すぎることとなった。
③、流会へ
・会場は明らかに二重に提出された委任状があることから騒然となり、結局総会は流会とし、昭和29年4月2日に千代田区の東京会館で継続総会を開くこととなった。
(6)、東京会館が会場を提供しない旨を通知する
・白木屋の総会には多数の暴力団関係者や右翼関係者が動員されるという噂がたったことから、会場として予定されていた東京会館は白木屋に対して継続総会の会場に提供しない旨を通知してきた。
(7)、白木屋側の第70期定時株主総会
①、中央クラブでの株主総会開催
・東京会館に会場使用を断られた白木屋側は、急きょ中央区の中央クラブを会場とし、その旨を夕刊新聞に公告し、東京会館の正面入り口にも掲示を張り出した。
②、横井側が総会が成立しない旨を主張する
・白木屋側の鏡山社長が議長として継続総会の開会を宣言すると、横井側の株主達はすぐに「会場変更手続き」や「鏡山社長側が株主の名義書き換え期間中に強引に書き換えを行った70万株余の無効」を指摘し、総会は成立しないと妨害を図った。
③、白木屋側鏡山社長の強引な総会運営
・総会屋の久保を中心とする白木屋側株主達が鏡山社長の議事運営を助け、
ア)、総会が成立する旨
イ)、第一号議案 計算書類の承認は可決される旨
ウ)、横井側から提出された累積投票の請求は成立せず、取締役及び監査役の選任は普通決議により選任する旨
エ)、第二号議案 具体的な取締役や監査役の選任
オ)、第三号議案 定款一部変更の件
と一気に議事を終了させた。
④、横井側の総退場
・横井側の株主達はこの白木屋側の鏡山社長の強引な総会運営に激怒し、怒号を残して総退場を決行した。
⑤、白木屋側の勝利?
・総会を乗り切った白木屋側は鏡山社長と総会屋の久保を中心に勝利をねぎらった。しかし、この総会に総大将である横井英樹と大物総会屋田島将光の姿はなかった。彼らは、この総会と同時刻に元の東京会館で総会を開催していたのである。
(8)、横井側の第70期定時株主総会
①、東京会館での株主総会
・横井英樹と大物総会屋田島将光は、会場の変更は総会の決議以外には認められないとして、白木屋側が中央クラブで総会を開催している同時刻に東京会館で十数名が出席して白木屋継続総会を開催した。これは、大物総会屋の田島の策であり、田島は白木屋側が東京会館の使用を拒否された時に別名で会場を予約していたのであった。よって、白木屋側が中央クラブで開催した総会に出席した横井側の株主達は総会を混乱させ時間を引き延ばすために送り込まれたものであった。
②、大物総会屋田島の手際よい議事進行
・田島は一人で手際よく議事を進行させ、
ア)、第一号議案 計算書類の承認は否決して検査役5名を選任して調査することとする旨
イ)、第二号議案 具体的な取締役や監査役の選任については、選挙の形式を省略し議長の指名によって選任手続きにかえることとし、議長の中沢某が横井英樹他を役員に選任していった。
ウ)、第三号議案 定款変更は全面的に反対する旨
を審議し、わずか10数分で総会を終えてしまった。さらに、この後取締役会を開催して横井を代表取締役に選任した。
③、登記の申請を済ませる
・大物総会屋の田島は株主総会と取締役会を終えるとすぐに日本橋法務局へ行き、議事録を添付して新しい役員を登記してしまった。
(9)、訴訟合戦
・白木屋側が株主総会と取締役会終了後に登記を申請しようとしてもできなかった。この後、白木屋側と横井側は訴訟合戦をして事態は全く進展しなくなった。
(10)、紛争の帰着
・最終的に、横井英樹は白木屋の社長に就任することなく所有していた株式をすべて東急の五島慶太に譲って手を引き、白木屋の鏡山社長も社長の座を追われた。白木屋は結局東急の傘下に収まった。
<参考文献>
『総会屋の100年』(神田豊晴、リッチマインド、1991)