1、エセ同和とは

 (1)、法務省の定義

  ①、引用

   ・「「同和問題はこわい問題である」という人々の誤った意識に乗じ、例えば、同和問題に対する理解が足りないなどという理由で難癖を付けて高額の書籍を売りつけるなど、同和問題を口実にして、会社・個人や官公署などに不当な利益や義務のないことを求める行為」をエセ同和行為と定義する。
  
  ②、ポイント

   ・法務省の定義は、エセ同和は「行為」の問題であって、その「行為」を行った団体がどういう団体であるのかは問わない。しかし法務省は一貫して、部落解放同盟などの主要運動団体の行為をエセ同和行為と認定することはしていない。

 (2)、共産党・全国地域人権運動総連合(人権連)の定義

  ・部落解放同盟と仲が悪い共産党や全国地域人権運動総連合(人権連)は、部落解放同盟の運動組織員が不祥事を起こす際に、部落解放同盟の行為をエセ同和行為と批判することがよくある。

2、時期

 ・昭和57年8(1982)に同和対策事業特別措置法の期限切れとなるので、昭和54年(1979)から昭和55(1980)ごろから増え始め、昭和58年(1983)の商法改正による総会屋の締め出しによって元総会屋が新しい稼ぎ先として目をつけ、さらには昭和59年8(1984)から起こった山一抗争によってヤクザに対する警察の締め付けが強くなったことから、エセ同和行為へ一部のヤクザが転向した。

2、誰がエセ同和行為を行ったのか

 (1)、誰がエセ同和行為を行ったのか

  ①、既成の運動組織員からの転向・旗揚げ組

  ②、既成の運動組織員が別の団体の名刺を使っている二また組

  ③、既成運動組織員自身のエセ同和行為

  ④、債権取立など民事をエサに稼いでいたヤクザや整理屋の鞍替え組

  ⑤、暴力団的右翼団体員からの転向組

  ⑥、株主総会活動で賛助金をせしめていた総会屋の商法改正をきっかけとした転向組

 (2)、被差別部落民以外の者がエセ同和行為を行えた理由

  ・部落解放同盟は「部落民は同盟員とする。但し部落民でない者についても、都府県連合会で審査決定し、中央本部の承認により同盟員とすることができる」と、被差別部落民ではなくても同盟員になれる規定があり、ある程度被差別部落出身者ではない同盟員がいた。被差別部落民ではないが、部落解放同盟員であり、同和行政の施策を受けることができるというやり方が存在していた。

3、エセ同和行為はどのような事をやっていたのか

 (1)、エセ同和行為はどのような事をやっていたのか

  ①、中央官庁や地方自治体など行政機関と掛け合って、農地転用や市街化調整区域の地目変更など、土地開発の許認可をとり、開発業者に橋渡しして、莫大な斡旋料をせしめた。

  ②、「同和」の名で、金融機関に圧力をかけて融資を仲介し、高額の手数料をとった。

  ③、固定資産税減免などの税金関係の同和対策につけ込んで、相続税などの税務工作をしてやり、多額の手数料のリベートをとった。

  ④、生命保険や交通事故などの保険上乗せ工作を行った。

  ⑤、行政、企業に圧力をかけ、あるいはしつこく交渉して、事業、工事請負、商取引を求めた。

  ⑥、行政や企業、とくに差別事件などを起こした企業などに抗議、糾弾、同和研修を強要して、多額の研修費をとった。

  ⑦、行政や企業に機関紙購読をおしつけ、あるいはミスやトラブルなどを機関紙に書いたり、書くといって揺さぶり、金品で書くことを収めたたり、多数の機関誌を買わせたりした。

 (2)、なぜエセ同和は跋扈したのか

  ①、同和対策事業によって多額の税金によって道路や住宅の整備を行った。この物的条件の整備を主とする同和行政が利権構造を生み出した。

  ②、既成同和団体の一部幹部が同和行政にかかわる利権によって富裕化してゆき、これが「同和は金になる」という認識を社会に広めた。

  ③、既成同和団体の分裂や対立による解放運動の混乱が、部落問題の解放ではなく同和によって金を目指す独立組・一匹狼な者の出現を誘発した。

  ④、部落問題に対しする一般人の認識不足や「同和はこわい」の意識が、エセ同和行為を跋扈させた。

  ⑤、中央官庁をはじめとする行政の全国的団体の一部幹部のいいなりになる密室行政が、エセ同和行為の活動に手を貸した。

  ⑥、山一抗争によるヤクザの取り締まりの強化や、商法改正による総会屋の取り締まりの強化によって、ヤクザや総会屋がエセ同和へ転向流れ込みを促した。

  ⑦、警察の取り締まりの姿勢が長く定まらずに、エセ同和行為に十分に対応できなかった。

<参考文献>

『新・同和問題と同和団体』(高木正幸、土曜美術社、1988)
『部落問題入門』(全国部落解放協議会、示現舎、2020)