1、ヤクザと癒着する警察
(1)、意義
①、ヤクザに捜査情報を流す警察官
・警察官がヤクザに捜査情報を流す事件がよく起こります。男性警察官の場合は、「恩を売れば、情報を収集できると思った」「警察の情報を提供することで関係を維持したかった」とヤクザから情報を収集するために捜査情報を流した、またはヤクザから金銭の授受や接待を受けて捜査情報を流したという場合が多いですが、女性警察官の場合は、警視庁新宿署の女性巡査や、これは警察官ではありませんが静岡地裁の検察事務官の女性など、ヤクザとの恋愛関係を維持したいがために捜査情報を流したというパターンが多いです。
②、制裁
・ヤクザから情報を収集したいがために捜査情報を流したような場合は、氏名は公開されず停職や減給処分で依願退職、ヤクザから接待や金銭の授受を受けていた場合は、氏名が公開されて懲戒免職というのが一般的な相場のようです。犯罪としては、ヤクザに情報を漏洩させると地方公務員法(守秘義務)違反、ヤクザから金銭を受け取ったり接待をうけたりすると単純収賄罪が、さらにその対価として情報の提供まで行うと加重収賄罪が成立します。
(2)、実証
①、警視庁
・警視庁組織犯罪対策4課の巡査部長(40)が、平成25年(2013)1月末から2月4日までの間、住吉会系組員に山口組系組長に関する捜査情報が記載された書類を渡していた。
・警視庁新宿署の女性巡査(23)が、平成29年(2017)12月に交際をしていたヤクザからの「自分が捜査対象の事件はあるか」との問いに対して、捜査の進展状況を組員に伝えた。この巡査は停職6か月の処分を受け、依願退職をした。
②、愛知県警
ア)、ブルーグループ事件
①、事件
・ブルーグループとは、名古屋を中心に全国に風俗店を中心に貸金業や不動産業まで幅広く経営していた、佐藤義徳氏率いるグループ企業である。平成23年(2011)4月、愛知県警は、佐藤や六代目山口組弘道会若頭・竹内照明氏を詐欺容疑で逮捕した。さらに平成25年(2013)1月には、佐藤が弘道会捜査を担当していた県警幹部を脅迫していたとして、脅迫容疑で逮捕した。
②、公判における衝撃の証言
・この事件の公判において、証人として出廷した愛知県警OBが、愛知県警の10人以上の捜査委員が、佐藤に風俗店の摘発情報を漏らす見返りに、接待や現金を受け取っていたことを証言した。佐藤も逮捕前に、「署長クラスを含め20人以上を飼っている」とうそぶいていたという。実際に、平成25年(2013)9月に、佐藤に情報を漏らしていたとして、愛知県警捜査一課の警部が地方公務員法(守秘義務)違反容疑で逮捕、起訴された。この警部は公判で「警察内はまだ暴力団関係者と癒着している人間が多数いるのに、なぜ私だけなのか」と発言したという。この警部は懲戒免職となった。
③、愛知県警と弘道会の癒着
・愛知県警OBは、「ブルーグループとウチとの癒着は佐藤がパクられる前から、(県警)内部では公然の秘密で、佐藤の公判で表沙汰になった後も、佐藤から接待を受け、カネをもらっていた幹部や捜査員が一掃されたわけじゃない。また、ブルー以外にも司興業など『弘道会系』といわれる風俗グループは複数あり、それぞれがブルーと同様に、幹部や捜査員を飼っている。もはや愛知県警と弘道会との癒着は捜査員個人の問題ではなく組織ぐるみで、ブルーの事件後にも、弘道会との関係が深いとみられる会社が、県警本部の設備工事を落札している。事前にタレコミがあったにもかかわらず、だ」とする。
イ)、愛知県警捜査第四課の巡査部長(37)が、平成29年(2017)12月末から令和2年(2020)3月下旬までの間に5回に渡ってヤクザ関係者に対して捜査内容を含む警察側の情報を提供していた。この巡査部長は依願退職した。
③、大阪府警
ア)、大阪府警西淀川署巡査部長情報漏洩事件
①、事件
・平成22年(2010)5月、不動産会社の元役員と山口組系I会の組長が詐欺容疑で逮捕された。元役員の関係先を家宅捜索したところ、マル暴担当の捜査員の自宅住所などが書かれた名簿が発見された。その後の捜査により、大阪府警西淀川署の巡査部長(40)が捜査情報を漏洩していたことが判明した。なお、この捜査の過程で渡辺二郎氏と島田紳助氏がやり取りしたメールや、島田紳助氏と暴力団関係者との関わりを示す資料が発見され、島田紳助氏は芸能界引退に追い込まれた。
②、癒着
・元役員は風俗店を経営しており、摘発を事前に把握するため、平成19年(2007)から平成23年(2011)にかけて、警察車両十数台分の情報の提供をこの巡査部長から受けていた。その見返りとして、平成18年(2006)から平成20年(2008)にかけて計数百万円ほどの金銭や、約10万円相当のスーツ2着の提供を受けていた。さらに、この巡査部長は元役員のローンの連帯債務者となっていたり、巡査部長の交際女性の転職先を元役員にあっせんしてもらったりと、かなり癒着が進んでいた。この巡査部長は懲戒免職となった。
④、奈良県警
・奈良県警橿原署地域課の警部補(49)が、奈良県警組織犯罪対策二課に所属していた平成17年(2005)から18年(2006)の間、暴力団組長を保証人として、組長の知り合いから計約320万円を借りていた。県警監察課は暴力団への警察情報の漏洩は確認できなかったとする。この警部補は懲戒免職となった。
・奈良県警橿原署地域課の巡査部長(56)が、奈良県警組織犯罪対策二課に所属していた平成16年(2004)に、暴力団組長の周辺人物から約30万円の腕時計の贈与を受けた。県警監察課は暴力団への警察情報の漏洩は確認できなかったとする。この巡査部長は懲戒免職となった。
⑤、和歌山県警
・和歌山県警刑事企画課警部補(44)がヤクザに捜査情報を漏洩し、また、刑事企画課長(56)と機動捜査隊長(55)がヤクザから接待を受けていた。刑事企画課長は地方公務員法(守秘義務)違反の疑いで書類送検し懲戒免職となり、刑事企画課長と機動捜査隊長は減給処分となり依願退職をした。
⑥、福岡県警
・福岡県警東署刑事2課の警部補(49)が、福博会の関係者に捜査情報を教えたり、平成24年(2012)2月頃には工藤會の関係者に事件を解決する方法を助言したりし、その見返りに計数十万円を受け取っていた。この警部補はパチンコなどの遊興費が原因で借金を抱えており、金に困っての犯行であった。この警部補は懲戒免職となった。
・福岡県警の関係者は福岡県警と工藤會の癒着について、「本部や所轄の中にはそれまで、工藤會とズブズブの関係やった幹部や捜査員がたくさんおった。そん証拠に、工藤會が小倉で大暴れしとった12年の2月にも、福岡東署の警部補が、工藤會の関係者に情報漏らして、カネもろうて(収賄容疑で)パクられとったやろが。また、野村(工藤會総裁)を殺人でパクった時に、樋口(本部長)さんが会見で、『工藤會の壊滅に向け、不退転の決意で臨む』とか話しとったが、あれをテレビで見た知り合いの所轄の署長は『とんでもなか。これ以上、あいつらを追い詰めたら、返り血浴びるばい』とビビっとった。逮捕後、野村が(取り)調べに、(過去に)複数の(県警)幹部に数千万(円)単位の現金を渡したことを仄めかしとるという話もあって、実際に監察も動いとる」とする。
⑦、長崎県警
・長崎県警の県南の警察署勤務の巡査部長(30歳代)が、令和元年(2019)5月から令和2年(2020)8月の間、ヤクザ1人を含む知人5人に対して、捜査情報を計14回漏洩させた。この巡査部長は停職6ヶ月となり、依願退職した。
2、六神抗争でヤクザ情報をよく収集したのは兵庫県警と大阪府警
(1)、意義
・警察とヤクザの癒着は、一線を越えれば犯罪が成立したり懲戒免職となったりしますが、警察はヤクザと「癒着」しないと情報収集ができません。六神抗争でヤクザ情報をよく収集したのは、五代目山口組時代から山健組と「癒着」している兵庫県警と、その兵庫県警と「犬猿の仲」とされる大阪府警でした。
(2)、実証
①、兵庫県警
・警察庁幹部は「ダントツなのはやはり地元の兵庫(県警)。特に神戸(山口組)に強く、幹部連中の動きをガッチリ押さえている。兵庫によると、分裂直後の8月27日午前には、組対局(組織犯罪対策局)の幹部が、神戸の井上(邦雄・組長)、池田(孝志・舎弟頭)、正木(年男・総本部長)の3人と接触。離脱に至る経緯や、今後の方針について3人から直接聞き取っている。(中略)この兵庫の報告で、警察庁は27日時点で、分裂の事実を確認することができた。その後も兵庫からは、神戸に関する確度の高い情報が入ってきている」とする。
②、大阪府警
・平成27年(2015)8月27日に六代目山口組は分裂したが、7月20日時点で極心連合会の関係者から六代目山口組の分裂情報を一番最初に入手したのは大阪府警であった。
③、愛知県警
・警察庁幹部は「兵庫、大阪に比べて精彩を欠いているのが、弘道会を抱える愛知(県警)だ」とします。その理由は「やはり『ブルーグループ』の一件が大きいのだろう。あの事件の前まではまだ、愛知から(弘道会に関する)情報が上がってきていたが、事件後はさっぱり。癒着がなくなった代わりに情報がとれなくなったということだろう」として、「警視庁のほうがまだ愛知より(弘道会に関する)情報を上げてきている」と、地元の愛知県警よりも東京の警視庁の方が弘道会に対する情報収集能力が高いとする。他方、愛知県警OBは、「ウチは弘道会の情報を取れないのではなく、取っても(警察庁に)上げないだけなんだ」とする。
④、福岡県警
・福岡県警はメディアに、浪川睦会(現・浪川会)が神戸山口組に参加すると吹聴した。浪川睦会は神戸山口組に参加しなかったので、この情報はガセネタであった。この汚名返上に福岡県警の情報係は全国を飛び回り、府中刑務所に収監されていた六代目山口組若頭・髙山清司にも面会に行った。
3、「捜査」と「癒着」の境界線
(1)、警察幹部
・かつて、神戸県警の警察官が協力者に居酒屋や風俗店で接待を受けて問題となった事件について、神戸県警の幹部は「協力者との付き合いが大事にされたのは昔の話。今は危険を冒してまで協力者との付き合いを求められているわけではない」と発言しましたが、この発言があった平成25年(2013)以降もヤクザとの「癒着」は絶えないので、そう簡単なものではないのでしょう。
(2)、現場の警察官
・北海道警察元警部の稲葉圭昭氏は「警察は、幹部と現場で考え方がまったく違う。幹部たちは実績を上げられれば何でもいいと考えているが、捜査とはそんなに簡単なものじゃない」とし、「現場はヤクザと接しているうちに取り込まれて来」るとします。ヤクザから金銭をもらったり接待をうける目的で捜査情報を流す警察官は論外ですが、ヤクザが欲しい捜査情報を流す代わりに警察が欲しヤクザ情報を入手してくる警察官は、ある意味職務熱心なのかもしれません。
(3)、微罪逮捕
・令和3年(2021)2月、六代目山口組三代目弘道会若頭・野内正博氏が大阪府警に逮捕されました。その容疑は、車検の際にすでに亡くなってる男性の名義で申請したという有印私文書偽造・同行使という微罪です。当然、野内氏が自身が乗ってる自動車の車検など関知しているわけはありませんが、野内氏は今のヤクザ業界の中心にいる人物ですし、大阪には野内組の勢力が強くなっているので、情報収集も逮捕の目的だったのでしょう。ヤクザと警察との「癒着」が絶たれると、このような微罪逮捕が増えるのかもしれません。
cf.警察が微罪逮捕する意味について、元山口組顧問弁護士の山之内幸夫氏は、「情報収集」だけではなくヤクザ組織に対する「けん制」でも使われると解説されています。例えば、令和4年(2022)9月9日に神戸山口組、池田組、絆會の三社連合が結成されました。これに対して愛知県警は六代目山口組三代目弘道会や司興業が報復をするのではないかと「けん制」の意味で、これらの組織の組員合計8名をETCカード詐欺で逮捕をしました。
・令和3年(2021)2月、六代目山口組三代目弘道会若頭・野内正博氏が大阪府警に逮捕されました。その容疑は、車検の際にすでに亡くなってる男性の名義で申請したという有印私文書偽造・同行使という微罪です。当然、野内氏が自身が乗ってる自動車の車検など関知しているわけはありませんが、野内氏は今のヤクザ業界の中心にいる人物ですし、大阪には野内組の勢力が強くなっているので、情報収集も逮捕の目的だったのでしょう。ヤクザと警察との「癒着」が絶たれると、このような微罪逮捕が増えるのかもしれません。
cf.警察が微罪逮捕する意味について、元山口組顧問弁護士の山之内幸夫氏は、「情報収集」だけではなくヤクザ組織に対する「けん制」でも使われると解説されています。例えば、令和4年(2022)9月9日に神戸山口組、池田組、絆會の三社連合が結成されました。これに対して愛知県警は六代目山口組三代目弘道会や司興業が報復をするのではないかと「けん制」の意味で、これらの組織の組員合計8名をETCカード詐欺で逮捕をしました。
<参考文献>
「山口組分裂と警察の野望」(『山口組 分裂抗争の全内幕』(西岡研介他、宝島社、2016))
「暴力団と不適切交際 - 警部補らを懲戒免職【県警】」(奈良新聞20100521)
「福岡県警警部補、組関係者に捜査情報漏洩か 現金受領の疑い」(日本経済新聞20120721)
「暴力団組員に捜査情報漏洩 容疑の巡査部長を逮捕」(日本経済新聞20130726)
「暴力団関係者に捜査情報提供の疑い 元巡査部長を不起訴 名古屋地検」(中京テレビNEWS20201031)
「「恩を売れば情報収集できると…」巡査部長、組員らに捜査情報14回漏えい」(読売新聞ONLINE20201211)
「組関係の店で職場懇親会…「癒着」に揺れる県警/和歌山」(読売新聞ONLINE 20140222)
「捜査情報漏洩の疑いで元巡査部長を逮捕 大阪府警」(日本経済新聞20111110)
「島田紳助を引退させた大阪府警「情報漏洩警官」が逮捕される」(週刊ポスト20111202)
「死亡男性の名義で車検申請 容疑で弘道会ナンバー2ら2人逮捕 大阪府警」(産経新聞20210220)
「こうして刑事は売られた 流出する動画、音声、風俗接待の証拠…兵庫県警の“闇”」(産経新聞20130203)
「死亡男性の名義で車検申請 容疑で弘道会ナンバー2ら2人逮捕 大阪府警」(産経新聞20210220)
「こうして刑事は売られた 流出する動画、音声、風俗接待の証拠…兵庫県警の“闇”」(産経新聞20130203)
「元刑事が「警察とヤクザの癒着」を告白するとき」(日刊SPA 20141130)