稗史

社会の片隅で生きる人達の虚実織り交ぜた物語

 ・ヤクザと経済

ヤクザと経済 太陽光発電に引き継がれるバブル時代のゴルフ場開発のノウハウ

1、三浦清志氏のビジネスはかつての後藤組のシノギ

 (1)、三浦清志氏

  ①、意義

   ・2023年3月7日、三浦瑠璃氏の夫で投資会社を経営する三浦清志氏が、業務上横領の疑いで東京地検特捜部に逮捕されました。この中で、三浦氏は太陽光発電をめぐって複数のトラブルを抱えていたことがわかりました。

  ②、引用

   「太陽光業者の男性:「(三浦容疑者は)非常に高圧的。あとは、知的な怖さがあります。(三浦容疑者に)ぼったくられたなと。困るどころではない、会社が飛ぶレベルです」 

    こう話すのは、かつて宮城県内の太陽光発電事業に関わっていた男性です。5年前、仙台市から西に30キロほどの場所にある山林で、太陽光発電事業を行おうと準備をしていたところ、三浦容疑者が突然、隣の土地を買い占めてきたといいます。 

    太陽光業者の男性:「ここが県道で、横の土地ですね。ここを通らないと電線をつなげない。ここを三浦さんが買って通さない。通したいんだったら、いくら払えよと」

             「(Q.どのくらいの金額で買ってくれと?)もともと、市場であれば1億円くらいで土地を買収できるものを約10億円。10倍です」

             「(Q.それは太陽光業界ではあること?)基本的にはあまりないです。明らかにゆすりみたいなものですよね」 

    送電線を通すために必要不可欠な隣の土地を、市場のおよそ10倍の値段で買い取れと要求してきたという三浦容疑者。男性がもっと値段を下げてくれるよう、会社に問い合わせると…。 

    三浦容疑者:「10億円で買えないなら、通行料を払ってください。(通行料を)年間で数千万円は頂きます」 

    男性は泣く泣く事業を諦めざるを得ませんでした。」

  ③、考察

   ・三浦氏は、太陽光発電事業を行っていた業者の隣りにある、電線をつなげるために必要な土地を突然買い占めて、市場価格の10倍で売りつけようとし、さらに買えないというと、通行料を払えと迫ってきたようです。

 (2)、後藤組

  ①、意義

   ・三浦氏のこのビジネスをどこかで見たことあるなと思ったら、『憚りながら』で後藤忠政氏が語っていたかつての後藤組のシノギでした。

  ②、引用

   ア)、ザ ナショナルカントリークラブ

    「櫻井さん(注、廣済堂の創業者・櫻井義晃氏)はもともと、岸(信介・元首相)さんの私設秘書みたいな存在で、平相の事件(平和相互銀行の不正経理事件)の時に、岸さんの下で(事態収拾に)動いたんだ。それで岸さんが平相に口を利いて出させた金で、廣済堂が作ったゴルフ場が、今も俺の地元にある「ザ ナショナルカントリークラブ」(富士宮市)だ。廣済堂がこのゴルフ場を作る時に、俺の知り合いとトラブルになったんだ。知り合いがゴルフ場の入り口(の土地)、幹線道路沿いのいい所を押さえていたもんで。俺がまだ三十五、六(歳)、伊堂組の枝(三次団体)の時だ。そしたら櫻井さんと仲が良かった神戸や大阪の直参の連中が出てきて、俺に「話をしよう」と言ってきたんだ。その直参2人を相手に、伊堂の枝だった俺が半年ぐらい、丁々発止をやり合ったんだ。ゴルフ場の完成が遅れるぐらいにね。」

   イ)、バブル時代

    「地産の竹井さん(注、竹井博友氏)と知り合ったのもゴルフ場がきっかけだ。地産のゴルフ場(富士チサンカントリークラブ)の横の土地に、ウチの若い衆が豚小屋を建てたことがあったんだ(笑)。それで竹井さんとは、3ヶ月近くやり合ったんだけど、何かお互い波長が合ってさ(笑)。終いには仲良くなっていた。俺が四十六、七(歳)の頃だったかな。この竹井さんと知り合った頃が、ちょうどバブルの入り口みたいなもんだった。バブルの時は、ゴルフ場が次から次にできたからな。そのゴルフ場のちょうど入り口に当たる土地なんかを持ってたら、何倍にも跳ね上がった時代だ。そしてこの頃から、廣済堂や、地産、武富士とか東京の企業に入り込んでいったんだ。」

  ③、考察

   ・廣済堂のザ ナショナルカントリークラブの事件は後藤氏が35、6歳の頃だから1977年か1978年頃、地産の富士チサンカントリークラブの事件は後藤氏が46、7歳の頃だから1988年か1989年頃でしょうか。ゴルフ場が建設されてる時に、その入り口の土地を買い占めて、ゴルフ場を建設してる業者に高く売りつけるというのが後藤組のシノギのひとつでした。このゴルフ場を太陽光発電に置き換えれば、三浦氏のビジネスと同じになります。

2、太陽光発電とヤクザ

 ・最近はカタギがかつてのヤクザのようなシノギをやるようになったのかと思ったら、猫組長によると、三浦氏は名神会から3000万円を借り入れたりとヤクザとのつながりがあったそうです。バブル時代のゴルフ場開発のノウハウが、現在の太陽光発電に生かされているのですね。



<参考文献>

 「三浦瑠麗氏に直撃「HP見て」…逮捕の夫は土地トラブルも “市場10倍”買い取り要求か」(tv-asahi、20230309)
 『憚りながら』(後藤忠政、宝島社、2010)

ヤクザと経済 振り込め詐欺

1、意義

 ・振り込め詐欺とは、平成16年(2004)に警察庁が、それまでに「オレオレ詐欺」「架空請求詐欺」「融資保証詐欺」などと呼んでいた詐欺の統一名称として採用した名称である。

2、種類

 (1)、オレオレ詐欺

  ・典型的な手口は、高齢者を狙って電話をかけ「オレ、オレ」と名乗って、子や孫だと錯覚させる。その上でさまざまな苦境に陥っていることを伝え、金が要るので高齢者に特定口座に金を振り込ませる。

 (2)、架空請求詐欺

  ・典型的な手口は、アダルトサイトに登録した者達の名簿を買い付け、債権管理組合などと名乗って利用料金を請求し、特定口座に振り込ませる。

 (3)、融資保証詐欺

  ・典型的な手口は、融資をする気はないが融資をする旨を触れ込み、融資を申し込んできた者に保証金や手数料、交渉料などの名目で特定口座に振り込ませる。

 (4)、還付金詐欺

  ・典型的な手口は、税務署や自治体などの役所などを偽装し、税金や医療費を還付するという名分で、実際には特定口座に金を振り込ませる。

 (5)、攻略法詐欺

  ・かつては、効果のとぼしい、もしくは全くないパチンコ攻略法を売っていたが、近年はパチンコ攻略情報は売れない。よって、「サクラ募集」「打ち子募集」といった方法に変わった。典型的な手口は、かつてパチンコ攻略法を買った顧客の名簿から、パチンコ店のサクラをやらないかと誘い、パチンコ店と打つ台を指定する。教わった通りの攻略法で打つと偶然に儲かる場合がある。この場合、被害者はパチンコ攻略情報を信用してしまい、パチンコ攻略会社に登録をしようとする。この時に、他の攻略グループに登録している時は退会する必要があるとし、その退会手続きを代行する手数料として、特定口座に金を振り込ませる。

3、巧妙な手口

 (1)、名簿の調達

  ・振り込め詐欺の命が、名簿である。この名簿は、例えばアダルトサイトの架空請求詐欺であれば、実際にアダルトサイトを運営している業者から買い取ったり、システム構築会社の管理職的な人を金で抱き込んで手に入れたりする。

 (2)、携帯電話の調達

  ・被害者へ電話をかける携帯電話は、東京や大阪などのドヤ街の住人や、氷河期世代の解雇や派遣切りされた若い世代から調達される。携帯の利用料を払わずに1ヶ月で使い捨てる。

 (3)、口座の調達

  ・被害者に振り込ませる口座も、東京や大阪などのドヤ街の住人や、氷河期世代の解雇や派遣切りされた若い世代から調達される。ネットバンキング登録付で1口座5万円ほどだという。

 (4)、銀行の営業時間中に電話をかける

  ・被害者に考える時間を与えずにすぐに振り込ませるように、銀行の営業時間中である9時から3時までの間に電話をかけまくる。

 (5)、出し子の利用

  ・振り込まれた金はすぐに引き下ろすが、その銀行口座から被害者が振り込んだ金を引き下ろすのが出し子である。ATMにはカメラが付いていて顔が記録されるので、もっとも逮捕されやすい役である。出し子は架空請求部隊とは切り離して、事務所へは出入りさせず、携帯電話で指示をだす。月100万円ほどの給料を支払う。

 (6)、少額を複数回でやめる

  ・被害者が被害にあっていると思わせないために、1回目は5万円、2回目は別の名義で20万円と一度騙された人に対しては、少額を複数回請求し、それでも1人200万円程度でやめる。

4、誰がやったのか

 (1)、暴力団

  ・振り込め詐欺は、若い20代30代の半グレが多いが、その背後には暴力団もいた。また、暴力団が直接振り込め詐欺を行っている場合もある。

 (2)、半グレ

  ・暴走族、ヤンキーやチーマー出身の半グレ層が、振り込め詐欺を多く行った。

 (3)、元ヤミ金業者

  ・暴力団や半グレ層とも被るが、判例によってヤミ金業者から借りた金は、元金も含めて返還する必要がないことが確定された。よって、ヤミ金に携わっていた者たちの一部は、どうせ返さなくてよいのであれば、貸してないカネを請求してやろうということで、振り込め詐欺へ進んでいった者も多い。

 (4)、有名私立大学出身のエリート達

  ・振り込め詐欺グループの中には、有名私立大学の現役学生や、全国有数の進学校出身者など、エリートとみられる若者のグループもあった。

 (5)、氷河期世代の若者たち

  ・就職氷河期が長引き、非正規雇用、ワーキングプア、ネットカフェ難民、若年ホームレスといった若者たちの中の一部が、振り込め詐欺グループへと加入していった。彼らは、通常であれば表の社会で生きるような人達である。

 <参考文献>

 『新装版 ヤクザ崩壊 半グレ勃興 地殻変動する日本組織犯罪地図』(溝口敦、講談社、2015)

ヤクザと経済 ヤミ金 

1、意義

 ・平成15年(2003)前後に社会問題となったヤミ金は、五代目山口組五菱会が中心となって手掛けたヤクザのシノギであった。

2、五菱会とは

 (1)、前身の美尾組

  ・美尾組は美尾尚利によって創設された。美尾はもともと清水一家ゆかりの組にいたが、清水一家が解散したことから、一本独鈷で美尾組を結成し、運営していた。その後、縁あって黒澤明組長の山口組黒澤組の舎弟となり、黒澤組長の引退を機に、山口組の直系若衆に引き立てられた。

 (2)、五菱会へ

  ①、高木康男とは

   ・高木康男はもともとは稲川会系組織にいたが、ヤクザをやめて倒産整理屋となった。倒産整理屋としてのノウハウを持ち、それで巨額の財をため込んだ高木を熱心にスカウトしたのが美尾であった。高木は美尾組の組長代行としてヤクザに戻った。

 参考)、倒産整理屋→ ヤクザと経済 倒産整理屋

  ②、五菱会

   ・高木は美尾組の若頭となり、陣内唯孝と名乗って陣内組を結成した。その後、美尾が平成14年(2002)に引退したのを機に、高木は美尾組を継承し、「五菱会」として山口組の直系若衆となった。当時の山口組組長は五代目の渡辺芳則であり、五代目の「五」と山口組の菱の代紋の「菱」から名付けられたものである。その背景には、多額の礼金が上納されたものとみられる。

 (3)、五菱会とヤミ金

  ①、梶山進とは

   ・五菱会の闇金融組織統括経営者は、「ヤミ金の帝王」と言われた梶山進であるとされる(なお、溝口敦は真のヤミ金の帝王は高木であるとする)。梶山は、高木と不良仲間であった。中学卒業後にヤクザとなり東京の新宿でヤミ金を始めた。一時ヤクザをやめるが、その後高木と一緒に美尾組に加入し、高木が陣内組を作ると、その副組長となった。高木が美尾組を受け継ぎ五菱会を結成した時に、梶山はヤクザをやめて、ヤミ金に専念するようになった。

  ②、五菱会の異質性

   ・この当時、ヤミ金は山口組の他組織も、また住吉会や稲川会系の組織も手掛けておらず、五菱会独自のシノギであった。五菱会の組員は同時にヤミ金会社の社員となって、給料が支給され、その給料から組へ上納金が払われた。このようなシステムで、五菱会は傘下80団体、組員総数600人以上の巨大組織へとなっていった。

 (4)、清水一家へ

  ・平成15年(2003)、高木は組織犯罪処罰法違反の疑いで、梶山は出資法違反の疑いで逮捕された。五菱会は美尾組に改称され、高木出所後の平成19年(2007)に、六代目清水一家と改称された。

3、ヤミ金のシステム

 (1)、由来

  ・ヤミ金の由来は、大阪の日掛け金融であるといわれている。日掛け金融とは、金を商店主などに貸して、毎日訪ねて金利を回収して歩くものである。

 (2)、システム

  ①、利率

   ・ヤミ金の利率は、トイチ(10日に1割)からどんどん上がっていき、トサン(10日で3割)、トゴ(10日で5割)、トナナ(10日で7割)となっていった。

  ②、利息の天引き

   ・ヤミ金は、客に貸し付ける時に、金利は前払いされる。例えば、4万円貸し付けたとすれば、金利の前払いとして2万円が引かれ、実際には2万円しか渡されない。正確には、その他書類代や審査代などの名目で数千円がさらに差し引かれる。

  ③、なるべく元本の返済を拒む

   ・返済日に全額返済できない客は、ジャンプといって利息だけ支払って返済を先延ばしにすることができる。元本が返済されてしまうと利息がとれなくなってしまうので、ヤミ金業者はなるべく客にジャンプさせようとした。

  ④、少額を貸し付ける

   ・高額を貸し付けると、さすがに客も高金利で返済できないのではないかとの危惧感を抱いてしまうので、貸し付ける限度額は10万円以内であった。少額であれば、たとえ高金利でも客は返済できるであろうと思うからである。

  ⑤、グループを形成する

   ・ヤミ金業者はグループを形成して、顧客情報を共有した。これによって、ヤミ金業者甲から借りた客が返済日になると、グループ内の別のヤミ金業者乙が客に貸付というのを繰り返すことにより、客から金を搾り取った。

  ⑥、多重債務者をターゲットとする

   ・五菱会は、最初は主婦に貸し付けていたが、その後ソープ嬢やソープ店の男性従業員にへと拡大し、さらには名簿屋から買い集めた多重債務者リストをもとに多重債務者へと貸し付けていった。一般的に、ヤミ金業者は多重債務者を狙って貸し付ける。

  ⑦、顧客の周りの人間から取り立てる

   ・多重債務者へ貸し付けても返済できない場合が多い。よって、ヤミ金業者は、多重債務者の周辺の人間、例えば、家族、親戚、職場の同僚などを脅して、強引に回収した。当然、法律上は借主の周辺の人間に返済義務はない。

  ⑧、普通の若者が非情な取り立てをするようになる

   ・ヤミ金の店長や営業部員の大半は、ヤクザではなく、アルバイト雑誌をみて高給に引かれてやってきた若者であった。ヤミ金は、顧客と直接面談して交渉することがなく、電話越しの関係である。よって、最初は罪悪感があってもだんだん感覚がマヒして、電話越しの顧客が自殺に追い込まれるまで苦悩をしても、非情に取り立てることが可能となった。

  ⑨、少額で開業が可能である

   ・ヤミ金は、元手に1000万円ほどがあり、携帯電話さえあれば、オフィスが不要である。よって、開業資金や運転資金をそれほど要しない。

 (3)、逮捕へ

  ①、巨万の富を形成する

   ・五菱会は、梶山を頂点に、執行部ー社長ーブロック長(統括)-店長ー従業員というシステムが構築されていた。最盛期には、全国に27系列、1000店舗を展開し、年間数千億円の収益を上げていたという。

  ②、逮捕

   ・ヤミ金被害が深刻になってくるにつれて、警察も相談に来た被害者を「借りたものは返しましょう」と諭す方針から「違法な取り立てを直ちに中止するように、電話による警告等を積極的に行う」と言う方針へと改めた。平成15年(2003)、梶山は出資法違反の疑いで逮捕された。梶山から数回にわたって約5000万円相当の金融債券を受け取っていたとして、高木も組織犯罪処罰法違反の疑いで逮捕された。しかし、収益は数千億円と言われるが、確認できた金は、日本国内では2億円相当の米ドル札が、さらにスイス当局が約51億円相当の預金口座を凍結したにすぎない。

4、その他のヤミ金被害

 (1)、ヤミ金三人心中事件

  ・ヤミ金被害を社会に印象付けた事件として、八尾のヤミ金三人心中事件が有名である。これは八尾市の老人3人が、ヤミ金「アクセス」から3万円(1週間で5割の利息、利息は前払い)を借りた。この後、「アクセス」そして「アクセス」と同じグループのヤミ金「友&愛」によって理不尽な貸し付けと取立を繰り返され、最期はJR踏切近くの線路に丸く輪になってしゃがみ込み、電車にはねられて自殺した事件である。

 (2)、逮捕へ

  ・「アクセス」や「友&愛」の統括者の男は、平成20年(2008)に出資法違反で逮捕された。このグループは多重債務者に集中的に貸し付けて、全国約5万8000人から約50億円を取り立てていた。また、ヤミ金の手法や、顧客が重なることから、五菱会との関連性も疑われた。

5、振り込め詐欺はヤミ金業者が作った

 ・判例によってヤミ金業者から借りた金は、元金も含めて返還する必要がないことが確定された。よって、ヤミ金に携わっていた者たちの一部は、どうせ返さなくてよいのであれば、貸してないカネを請求してやろうということで、振り込め詐欺へと「進化」していったのである。この中で、ヤミ金時代に蓄えられたノウハウが生かされていった。

 <参考文献>

 『新装版 ヤクザ崩壊 半グレ勃興 地殻変動する日本組織犯罪地図』(溝口敦、講談社、2015)

ヤクザの収入

1、昭和40年代前半頃

 (1)、意義

  ・昭和40年代前半頃までのヤクザは、基本的に貧困であった。

 (2)、具体例

  ①、山本健一

   ・昭和40年代前半頃、山口組若頭補佐であった山本健一は、肝臓を患い始め、かつ椎間板ヘルニアの症状が出ても、治療費はもとより入院代すら払えなかった。妻に「悪いけど、里に帰ってくれるか。わしはいまの状態でお前を養うていかれへんのや」と言ったという。

  ②、宅見勝

   ・総資産3000億とも言われた宅見であるが、昭和30年代後半頃は「わしの若い時分、ヤクザゆうたらカネがなくて当たり前、せいぜいの夢が風呂つきアパートに入ることやった。車はタクシー上がりの何十万走ったか分らんやつ、ピカピカに磨いて、それでも得意になって乗ってたもんですわ」といった感じであった。

2、昭和52年(1979)の警察庁の調査

 (1)、意義

  ・昭和52年(1979)の段階で、暴力団員は10万人、年収総額は1兆円、当時のサラリーマンの平均年収は246万円である中、暴力団員一人あたりの年収1000万円であった。これは上は組長から、下は末端の組員までを含めた平均額であるので、末端の組員はもっと少なかったとは思われるが、この当時のヤクザは、かなり稼げる業界であった。

 (2)、生活形態と年収

  ①、組定着型

   ・組織の首領、上級幹部クラスで全体の14.6%ほどを占める。彼らの年収は平均3000万円ほどであった。

  ②、組依存型

   ・組織の幹部や中堅クラスで全体の22.4%ほどを占める。彼らの年収は平均2000万円ほどであった。

  ③、女性依存型

   ・組織の中堅以下の組員で特定の女性に寄生している層で全体の28.2%を占める。彼らの年収は1000万円ほどであった。

  ④、親依存型

   ・親や兄弟に頼って生活している層で全体の8.8%を占める。彼らの年収は300万円ほどであった。

  ⑤、下層労働者型

   ・露店や労働者をして生活をしている層で全体の20.5%を占める。彼らの年収は300万円ほどであった。

  ⑥、特定の組織にいない暴力常習者

   ・特定の組織にいない暴力常習者などで全体の5.5%を占める。彼らの年収は300万円ほどであった。

 (3)、資金源

  ①、合法的資金源

   ア)、土建(11.5%)

   イ)、金融(12.2%)

   ウ)、風俗(22.5%)

   エ)、興行(2.0%)

   オ)、露店(6.6%)

   カ)、その他商店(2.3%)

   キ)、その他業種(8.7%)

   ク)、なし(33.4%)

  ②、非合法的資金源

   ア)、賭博(57.8%)

   イ)、債権取り立て(32.4%)

   ウ)、ノミ行為等(23.2%)

   エ)、麻薬など(13.1%)

   オ)、エロフィルム(8.0%)

   カ)、ポン引売春(9.2%)

   キ)、土建関係(手配)(1.3%)

   ク)、みかじめ(用心棒)(22.3%)

3、平成元年(1989)の警察白書

 (1)、意義

  ・バブル景気の時代、ヤクザ全体の年間収入はおよそ1兆3019億円とされ、一部には7兆円説も出るほどヤクザはかなり稼げる業界であった。当時の全国給与所得者の平均年収を500万円と考えると、首領クラスはその100倍、つまり年収5億ほどの稼ぎがあったという。

 (2)、組織実体

  ・ある大規模暴力団は、Aクラスの幹部が約120人いる。彼らは各自月額50万円を上納するので、これだけで6000万円となる。同様にBランクの幹部約250人が各自25万円を上納するので月額6250万円、またCランクの幹部約600人が各自15万円を上納するので月額9000万円となり、合計で月2億1250万円、年額25億円以上が上納されることとなる。これを総裁と会長の2人で二等分したとしても、年額12億5000万円の上納金が黙って入ってくることとなる。

4、平成5年(1993)の警察白書

 (1)、1ヶ月の収入

  101万円以上 5.9%
  
  51~100万円 12.5%

  31~50万円  17.2%

  21~30万円  20.5%

  11~20万円  20.9%

  1~10万円  10.7%

  0円     12.2%

 (2)、資金源

  ①、合法的収入源

   ア)、仕事をしていない者(48.3%)

   イ)、建設業(26.0%)

   ウ)、露店(11.7%)

   エ)、金融業(10.6%)

  ②、非合法的収入源 

   ア)、債権取立て(28.1%)

   イ)、みかじめ料の取立て(13.1%)

   ウ)、覚せい剤の密売(9.8%)

   エ)、賭博(8.8%)

<参考文献>

 『撃滅 山口組VS一和会』(溝口敦、講談社、2000)
 『カネと暴力と五代目山口組』(溝口敦、竹書房、2007)

ヤクザと経済 倒産整理屋

1、意義

 ・倒産整理屋とは、倒産しそうな企業に目をつけて倒産させ、その中から利益を引きずり出す方法である。経済事犯の総合版であり、街金融、手形パクリ屋、サルベージ屋、事件師などの専門知識を広く必要とされ、チームを組んで、企業を食い物にした。警察庁は昭和54年(1979)に「民事介入暴力対策センター」を置いて対策をしたので、最盛期を昭和57年(1982)頃として、だんだん衰退していった。

2、典型例

 (1)、経理内容をチェックする

  ・倒産整理屋に金を貸してほしいという客が来たら、まずは経理帳簿を持ってこさせて、金を貸さないといつ頃倒産するのか等、経理内容をチェックする。この時、貸す素振りを見せて客を安心させ、客が他の金融機関から金を借りないようにする。

 (2)、不渡り

  ・倒産整理屋から金を貸してもらえるものだと思っていた客は、他の金融機関から融資を受けなかったので、やがて不渡りを出す。

 (3)、脅迫

  ・客が不渡りを出したら、倒産整理屋と組んでいるヤクザが、取引会社の依頼を受けた形で乗り込んで「不渡りをだしてどうするんだ」と脅迫をする。

 (4)、客の財産をすべておさえる

  ・ヤクザの脅されて動転している客に、倒産整理屋は助けてあげる素振りをして、客の在庫、預金、売掛金、有価証券、不動産など財産をおさえてしまう。

 (5)、倒産

  ・客が倒産をしたら、債権者集会で他の債権者を背後にいるヤクザの力で脅して、一割くらいの配当で納得させ、他の利益を全部奪い取ってしまう。

3、山口組と倒産整理屋

 (1)、意義

  ・山口組内で倒産整理屋を得意としたのが菅谷政雄であった。菅谷は、金融、不動産から、野球賭博、競馬競輪のミノ行為などをシノギとして巨額の資産を作ったが、その重要な資金源の一つが、倒産整理屋であった。菅谷のブレーンとしては、八幡商事の大村幹雄が有名である。

  cf.山之内幸夫氏は、大村氏とやりあったことがあるそうです。山之内氏は時代の証人ですね。


 (2)、絶縁後

  ・昭和52年(1977)に菅谷が山口組から絶縁され、それと前後して菅谷が出資法違反で摘発され府中刑務所に服役して社会不在となると、菅谷組系の組織や企業舎弟が他の山口組系組織の草刈り場となった。菅谷組舎弟頭の浅野組組長・浅野二郎は菅谷組にとどまる気持ちであったが、パイナップル爆弾を仕掛けられるなどの嫌がらせをうけて、昭和56年(1981)に菅谷組は解散した。しかし、菅谷組の経済ノウハウは山口組に承継されていった。

4、事件史

 (1)、家具卸販売業I商事事件

  ①、倒産へ

   ・東京日暮里で家具卸販売業を行っていたI商事は、昭和56年(1981)3月に資金繰りが悪化して8億円の融通手形を切った。このうちの1000万円が菅谷組の企業舎弟である八幡商事の大村幹雄と組む、中小企業育成センター社長・橋本実の手に渡った。橋本は、I商事社長を融資をする振りをして融資をせずに、I商事を倒産に追いやった。
  
  ②、財産を奪う

   ・橋本と大村はI商事社長を呼び出して拳銃の銃口を向けて脅し、社長から会社と自分の実印、不動産権利証、売掛台帳など総額16億円のI商事の資産を奪った。

 (2)、O工芸倒産事件

  ①、倒産へ

   ・大阪ミナミのO工芸は一時は年商14億円と羽振りがよかったが、昭和53年(1978)2億円余りの脱税で挙げられてから会社が傾き、昭和55年(1980)に倒産した。

  ②、財産の奪い合い

   ・倒産の当日、1600万円の債権を持つ山健組系組織と、4000万円の債権を持つ菅谷組系の倒産整理屋が、O工芸の本店に入り込んで、差し押さえ物をめぐって激しく対立した。しかし、昭和52年(1977)に山口組を絶縁処分となった菅谷組と、勢い増していた山健組では山健組が強く、債権者委員会の正副委員長の座も山健組系が独占し、菅谷組系は追い出されてしまった。

<参考文献>

 『撃滅 山口組VS一和会』(溝口敦、講談社、2000)

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