1、「部落差別が解消された」とはどういう状態なのか
(1)、政府
・政府が部落差別が解消された状態について明確に述べた見解はない。
(2)、部落解放同盟
・平成23年(2011)の第68回部落解放全国大会で「部落解放が実現された状態とは、部落民であることを明らかにしたり、歴史的に部落差別を受けた地域が存在していても、何らの差別的取り扱いや排除・忌避を受けることなく人間としての尊厳と権利を享受し、支障なく自己実現ができる社会環境になることである」と決定した。
(3)、全解連
・昭和61年(1986)の第16回定期大会で「部落問題の解決すなわち国民融合とは、
①、部落が生活環境や労働、教育などで周辺地域との格差が是正されること
②、部落問題にたいする非科学的認識や偏見にもとづく言動がその地域社会で受け入れられない状況がつくりだされること
③、部落差別にかかわって、部落住民の生活態度・習慣にみられる歴史的後進性が克服されること
④、地域社会で自由な社会的交流が進展し、連帯・融合が実現すること
である」と決定された。
2、新たな差別の形態「デジタル差別」の出現
(1)、意義
・同和地区に対する特別対策終了後、インターネットをはじめとする情報技術の発展もあり、人々のライフスタイルは大きく変わった。それに伴い、差別の形も変わった。従来のように対面で差別的な発言をするのではなく、ネット上で匿名で一方通行で差別的な書き込みをし、さらにその書き込みが尾びれがついてあることないことどんどんと拡散していく形態である。これを「デジタル差別」という。
(2)、内容
・インターネット上の掲示板などに匿名で、同和地区や同和地区出身者に対する誹謗・中傷、同和対策に対する批判などが書き込まれるようになった。
・かつての被差別部落の場所を示していると考えられる古地図の画像など、偏見や誤解につながる情報がインターネット上に流れるようになった。
・同和問題についての正しい知識のない若い世代を中心に、これらの情報の正否を判断できないまま受け入れてしまうケースもみられるようになった。
3、部落問題の人権一般への解消
(1)、「部落民」とは何か
・同和対策事業の推進などによって部落民が部落外へ移動したり、部落外の人と結婚したりする機会が増えてくる。これに対して、「部落民」とは何かという「部落民」としてのアイデンティティーが問題となってきた。
(2)、他の差別されている人々との連帯
・従来、差別の歴史はせいぜい被差別部落民、女性、アイヌ等しか取り上げられず、個別史としてしか語られてこなかった。しかし、在日韓国・朝鮮人、アイヌ、沖縄、障害者、ハンセン病回復者、性同一性障害者、同性愛者など広範な人々に視野が及び、さらに差別の全体的な構造としての歴史が語られるようになった。
(3)、部落問題の人権一般への解消
①、行政側
・行政側において同和対策事業が終焉した後は、同和対策が人権対策に、同和教育が人権教育にとってかわられた。
②、民間
・大阪にある部落解放研究所は、平成10年(1998)に20周年を機に部落解放・人権研究所と名称を改め、機関紙も平成14年(2002)に『部落』から『人権と部落問題』に改題された。
4、部落史の見直し
(1)、「政治起源説」の克服ないし再検討
①、政治起源説とは
・被差別部落は江戸時代に権力が民衆支配の道具として意図的に作り出したものであるとする説。井上清は、独占資本が部落差別を利用・再生産してきたと指摘し、教育の現場でも広く受け入れられた。
②、社会的意味
・政治権力が作り出したものが被差別部落とするので、行政闘争の展開や同和対策審議会の答申を引き出すうえで都合のよい説であった。
③、問題点
・同和対策事業が進展しても、民衆の差別意識はなかなかなくならなかった。よって、歴史をさかのぼって人々の民衆意識を問うことが必要となった。具体的には、中世の賤民に向けられた差別意識やケガレ観などの議論である。
(2)、被差別部落の「ゆたかさ」
①、従来の被差別部落研究
・従来の被差別部落研究は、被差別部落がいかに権力によって差別されてきたのか、いかに「みじめ」で「悲惨な」生活を送っていたのかが強調されがちであった。
②、被差別部落の「ゆたかさ」
・網野義彦の研究に触発されて、被差別部落を一種のアジールとみなし、被差別部落がもつ共同体の「ゆたかさ」を前面に押し出そうとする試みがなされるようになった。
③、良い点と問題点
・被差別部落の「ゆたかさ」を伝えることによって、被差別部落出身の者は自分の地域に誇りが持て、部落外の者も被差別部落の良い面を知って偏見を取り除くことができるのが良い点である。他方で、被差別部落がいかに差別をされてきたのかを伝えにくくなるのが問題点である。
<参考文献>
『近代部落史』(黒川みどり、平凡社、2011)
人権啓発ビデオ 人権アーカイブシリーズ「同和問題 ~過去からの証言、未来への提言~」
(1)、政府
・政府が部落差別が解消された状態について明確に述べた見解はない。
(2)、部落解放同盟
・平成23年(2011)の第68回部落解放全国大会で「部落解放が実現された状態とは、部落民であることを明らかにしたり、歴史的に部落差別を受けた地域が存在していても、何らの差別的取り扱いや排除・忌避を受けることなく人間としての尊厳と権利を享受し、支障なく自己実現ができる社会環境になることである」と決定した。
(3)、全解連
・昭和61年(1986)の第16回定期大会で「部落問題の解決すなわち国民融合とは、
①、部落が生活環境や労働、教育などで周辺地域との格差が是正されること
②、部落問題にたいする非科学的認識や偏見にもとづく言動がその地域社会で受け入れられない状況がつくりだされること
③、部落差別にかかわって、部落住民の生活態度・習慣にみられる歴史的後進性が克服されること
④、地域社会で自由な社会的交流が進展し、連帯・融合が実現すること
である」と決定された。
2、新たな差別の形態「デジタル差別」の出現
(1)、意義
・同和地区に対する特別対策終了後、インターネットをはじめとする情報技術の発展もあり、人々のライフスタイルは大きく変わった。それに伴い、差別の形も変わった。従来のように対面で差別的な発言をするのではなく、ネット上で匿名で一方通行で差別的な書き込みをし、さらにその書き込みが尾びれがついてあることないことどんどんと拡散していく形態である。これを「デジタル差別」という。
(2)、内容
・インターネット上の掲示板などに匿名で、同和地区や同和地区出身者に対する誹謗・中傷、同和対策に対する批判などが書き込まれるようになった。
・かつての被差別部落の場所を示していると考えられる古地図の画像など、偏見や誤解につながる情報がインターネット上に流れるようになった。
・同和問題についての正しい知識のない若い世代を中心に、これらの情報の正否を判断できないまま受け入れてしまうケースもみられるようになった。
3、部落問題の人権一般への解消
(1)、「部落民」とは何か
・同和対策事業の推進などによって部落民が部落外へ移動したり、部落外の人と結婚したりする機会が増えてくる。これに対して、「部落民」とは何かという「部落民」としてのアイデンティティーが問題となってきた。
(2)、他の差別されている人々との連帯
・従来、差別の歴史はせいぜい被差別部落民、女性、アイヌ等しか取り上げられず、個別史としてしか語られてこなかった。しかし、在日韓国・朝鮮人、アイヌ、沖縄、障害者、ハンセン病回復者、性同一性障害者、同性愛者など広範な人々に視野が及び、さらに差別の全体的な構造としての歴史が語られるようになった。
(3)、部落問題の人権一般への解消
①、行政側
・行政側において同和対策事業が終焉した後は、同和対策が人権対策に、同和教育が人権教育にとってかわられた。
②、民間
・大阪にある部落解放研究所は、平成10年(1998)に20周年を機に部落解放・人権研究所と名称を改め、機関紙も平成14年(2002)に『部落』から『人権と部落問題』に改題された。
4、部落史の見直し
(1)、「政治起源説」の克服ないし再検討
①、政治起源説とは
・被差別部落は江戸時代に権力が民衆支配の道具として意図的に作り出したものであるとする説。井上清は、独占資本が部落差別を利用・再生産してきたと指摘し、教育の現場でも広く受け入れられた。
②、社会的意味
・政治権力が作り出したものが被差別部落とするので、行政闘争の展開や同和対策審議会の答申を引き出すうえで都合のよい説であった。
③、問題点
・同和対策事業が進展しても、民衆の差別意識はなかなかなくならなかった。よって、歴史をさかのぼって人々の民衆意識を問うことが必要となった。具体的には、中世の賤民に向けられた差別意識やケガレ観などの議論である。
(2)、被差別部落の「ゆたかさ」
①、従来の被差別部落研究
・従来の被差別部落研究は、被差別部落がいかに権力によって差別されてきたのか、いかに「みじめ」で「悲惨な」生活を送っていたのかが強調されがちであった。
②、被差別部落の「ゆたかさ」
・網野義彦の研究に触発されて、被差別部落を一種のアジールとみなし、被差別部落がもつ共同体の「ゆたかさ」を前面に押し出そうとする試みがなされるようになった。
③、良い点と問題点
・被差別部落の「ゆたかさ」を伝えることによって、被差別部落出身の者は自分の地域に誇りが持て、部落外の者も被差別部落の良い面を知って偏見を取り除くことができるのが良い点である。他方で、被差別部落がいかに差別をされてきたのかを伝えにくくなるのが問題点である。
<参考文献>
『近代部落史』(黒川みどり、平凡社、2011)
人権啓発ビデオ 人権アーカイブシリーズ「同和問題 ~過去からの証言、未来への提言~」