1、意義

 (1)、衰退する総会屋

  ・昭和56年(1981)商法が改正され、①単位株制と、②利益供与の禁止が設けられ、翌昭和57年(1982)に施行された。この結果、全国の総会屋は8000人、総会屋に流れる金は年間421億円にも及んでいたものが、その数は激減し、名簿上1200人、実質では200~250人ほどになった。毎年何人か利益供与で逮捕される程度で、忘れ去られる存在となっていった。

 (2)、暴力化した総会屋

  ・総会屋は、広島の共政会を後ろ盾として1970年代に登場した広島グループ以後、暴力化していった。また暴力団側でも平成4年(1992)の暴力団対策法施行やバブル経済の崩壊によって、地上げ、債権取り立て、みかじめ料の徴収などが滞ってきた。そこで、暴力団は企業から金を毟り取る企業対象暴力の方向へと移っていき、その一方式として総会屋へ参入していった。総会屋と暴力団がさまざまな程度で合わさりあって、総会屋は暴力化していった。

2、総会屋がらみの殺傷事件

 (1)、意義

  ・株主総会がもめた後に、企業する社屋や総会関係者自宅へ向けたカチコミや、実際に総会関係者が殺傷される事件が起きるようになった。

 (2)、事件

  ・昭和62年(1987)6月、ワコールの株式部長が刃物で襲われて怪我を負った。

  ・平成4年(1992)9月、日本光電工業の社長夫人が、自宅で宅配便の配達を装った男にスプレーを吹きかけられたうえ、刃物で切りつけられて腕に10日間の怪我を負った。

  ・同年10月、日本光電工業総務部長の母親が、自宅で刃物で顔を切り付けられて2週間の怪我を負った。

  ・平成5年(1993)8月、阪和銀行副頭取・小山友三郎が、出勤のために車に乗ったところ、自宅前で射殺された。犯人は不明である。

  ・同年9月、キングの社長宅を訪れていた義姉が、男に刃物で顔などを切られて10日間の怪我を負った。

  ・平成6年(1994)2月、富士写真フィルム専務・鈴木順太郎が、自宅前で刺殺された。

  ・同年9月、住友銀行の名古屋支店長・畑中和文が、射殺された。犯人は不明である。

  ・平成9年(1997)8月、山一證券顧客相談室長・樽谷紘一郎が、刺殺された。犯人は不明である。

3、総会屋と暴力団

 (1)、総会屋と暴力団の関わり合い

  ・バブル期前後頃の総会屋は、ヤクザの組員、企業舎弟であったり、またヤクザではなくてもヤクザを後ろ盾にしていたり、元ヤクザであったり、たいていがヤクザと関係を持っていた。

 (2)、暴力団

  ①、意義

   ・かつて総会屋に強い暴力団は、広島グループの共政会や、関東の松葉会であった。しかし、暴力団の寡占化によって、住吉会や山口組系が多くなっていった。

  ②、具体例

   ・論談同友会は住吉会系大日本興行系であった。

   ・論談同友会に対抗したのが、小川薫の小川グループ、日本會民主同盟など山口組系の総会屋や、山口組直系の後藤組であった。

4、警察の対応

 (1)、意義

  ・警察は企業へ総会屋を切るように指導をした。しかし、富士写真フィルム専務刺殺事件など総会屋を切った後に暴力化した総会屋が総会担当者を襲撃する事件が相次ぎ、総会屋を切った後に警察が安全を保障してくれるのか、総会担当者は疑心暗鬼となった。

 (2)、警察の対応

  ①、過去は問わない警察

   ・昭和56年(1981)商法が改正され利益供与が禁止された。これは株式の行使に対して利益を供与したら、供与を受けた総会屋だけでなく、供与をした企業側も罰するという制度であった。よって、過去に総会屋へ利益供与をしていた企業は、自らが罰されてしまうので警察に相談しにくかった。そこで、警察庁長官・城内康光は、「警察は企業の過去は問わない。過去の利益供与の解明より事件の捜査に重点を置く」という法律の運用を指示した。

  ②、企業の総会屋排除

   ・企業は総会屋排除を決め、警視庁に誓約書を提出し、総会屋や右翼筋が送り付けてくる情報誌の購読も中止するようになった。

5、足を洗う総会屋達

 (1)、意義

  ・平成4年(1992)以降、もはや総会屋稼業では飯は食えないと見切りをつける総会屋が増えだした。例えば、論談同友会では、幹部は経営コンサルタント、そういかない下の者はバイク便、ビル清掃、飲食店など正業に就かせていった。

 (2)、利益供与の抜け穴を考える

  ・総会屋を続ける者達は、自分の女に店をやらせて、企業の人間が来た時は特別勘定でがっぽりつけて利益供与がわりにしたり、企業の方も総会屋にはビール券や商品券など換金性があるものをあげたり、利益供与の抜け穴を考えていった。

6、総会屋からコンプライアンス利権を奪った警察

 (1)、意義

  ・総会屋と警察の戦いは、総会屋がお金をもらって他の総会屋から企業を守るのか、警察が企業を守るのか、コンプライアンス利権の奪い合いという側面もあった。
 
 (2)、特殊暴力防止対策連合会(特防連)

  ①、意義

   ・特殊暴力防止対策連合会とは、東京霞が関の警察総合庁舎など全国7カ所に事務所を置く公益社団法人である。企業から入会金や年会費を取り、企業が株主総会を開く前に、模擬株主総会を開いて総会屋対策を教え、総会当日に総会屋が出席をすると分れば、現役警官を警備員として配置するなどの事をしている。しかし、現在企業から総会屋に対する問い合わせはあまりなく、クレーマーについての問い合わせの方が多いという。

  ②、警察OBの天下り先

   ・特防連の幹部や職員は、圧倒的にヤクザ対策を担当する捜査四課や暴力団対策課などの警察OBが多い。警察OBの天下り先になっているのである。

 (3)、企業の総務部

  ・大企業だと株主総会を担当する総務部には、警察OBが天下りをしている場合が多い。企業からは、総会屋に払っていた金よりも天下りの警察OBへ払う給料の方が高くつくと嘆かれる場合もある。

<参考文献>

 『カネと暴力と五代目山口組』(溝口敦、竹書房、2007)
 『新装版 ヤクザ崩壊半グレ勃興』(溝口敦、講談社、2015)