1、問題提起

 ・日本国憲法は21条1項で、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と規定する。暴力団の存在自体を否定する結社罪は憲法が保障する結社の自由に反するように思われるが、日本において「結社罪」は可能か。

2、ドイツの事例

 (1)、意義

  ・第二次世界大戦時にナチスを経験したドイツは、刑法129条に「犯罪団体結社罪」を規定して、日本の暴力団のような存在そのものを否定している。

 (2)、ドイツ刑法129条

   その目的もしくは活動が犯罪行為を行うことに向けられた団体を設立した者、またはこのような団体に構成員として参加し、このために宣伝し、もしくはこれを支援した者は5年以下の自由刑または罰金に処する。

 (3)、歯止め

  ・ドイツ刑法129条は運用の仕方によっては、結社の自由が侵害され、政治団体や労働組合運動などへの弾圧にもなりかねない。よって、何が「その目的もしくは活動が犯罪行為を行うことに向けられた団体」であるのかについて、「武装集団やテロリスト団体の編成」などと具体的に列記する形をとり、また「その目的もしくは活動が犯罪行為を行うことに向けられた団体」であるかどうかはは連邦憲法裁判所の宣告によるものとした。

3、その他の「結社罪」を持つ国々

 (1)、フランス

  ・刑法265条から268条で「犯罪的結社」罪を定めている。殺人や傷害など人に対する罪、窃盗や通貨偽造など財産に対する罪を犯すことを目的とする結社に加入し、またはその犯罪計画にかかわった者は5年以上10年以下の拘禁に処するという内容である。

 (2)、イタリア

  ・イタリアには「マフィア型犯罪対策統合法」「マフィア型犯罪防止法」「マフィア犯罪闘争緊急措置法」など数多くの組織犯罪取締法がある。しかし、社会にマフィアが根付いているので、あまり機能はしていない。

 (3)、韓国

  ・韓国は「暴力行為などの処罰に関する法律」の4条に「暴力団体組織罪」がある。犯罪を目的とした団体、または集団を構成した者は、①首謀者が死刑、無期、または10年以上の懲役、②幹部は無期、または5年以上の懲役、③加入したものは1年以上の懲役という定めである。

 (4)、香港

  ・結社に関する条例

 (5)、台湾

  ・戦時体制下暴力団取締条例

 (6)、シンガポール

  ・予防拘禁法

 (7)、マレーシア

  ・緊急犯罪防止法

4、日本の場合

 (1)、異質な暴力団

  ・結社罪を持つドイツのように、先進諸国における組織犯罪は、麻薬密輸、宝石などの強盗・窃盗、人身売買、金融犯罪など、それぞれに特化した専門的な組織が存在し、日本の暴力団やイタリアのマフィアのような犯罪のデパートのような組織立った結社は存在していない。

 (2)、なぜ日本では結社罪ができないのか

  ①、警視庁刑事部捜査員

   ・警視庁刑事部捜査員は「結社の自由、表現の自由に抵触しないような、暴力団の存在そのものに着目する法律が欲しいですよ。実際、われわれ旅館業法や職安法、かと思えば政治資金規制法など、重箱のスミを突くようにして個別法まで動員、暴力団の摘発につとめていますけれど、しょせん形式犯ですからね、上の幹部クラスを検挙してもすぐに身柄を放たなければならないんです。中心部に対しては迫り切れない。これでは幹部はいつまでたっても安泰、組織はなくならないという悪循環です」と言う。

  ②、溝口敦氏
  
   ・「日本では結社の自由論議がやかましく、(結社罪は)やれないといわれているが、筆者は疑っている。それ以上に警察が暴力団を必要としているのだ。(中略)警察は今もって内乱時には暴力団の力を借りようと考えているし、だいたい暴力団が禁止になると、担当である捜査四課や暴力団対策室が縮小され、失業者が出ると考えている」とする。つまり、警察官の雇用を守るために、建前として結社の自由などの憲法論を持ち出して、あえて暴力団を存続させているということである。

<参考文献>

 『カネと暴力と五代目山口組』(溝口敦、竹書房、2007)
 『新装版 ヤクザ崩壊半グレ勃興』(溝口敦、講談社、2015)