ヤクザの存在理由を、警察が警察官の雇用、予算獲得、警察OBの天下り先の確保のためにヤクザを必要としていると考える方も多くいます。正鵠を射た見方か、穿ちすぎた見方なのか、どうなのでしょう。
1、ヤクザが警察官の雇用を守っている説
(1)、溝口敦(『カネと暴力と五代目山口組』(溝口敦、竹書房、2007)、『新装版 ヤクザ崩壊半グレ勃興』(溝口敦、講談社、2015)))
日本では結社の自由論議がやかましく、(結社罪は)やれないといわれているが、筆者は疑っている。それ以上に警察が暴力団を必要としているのだ。(中略)警察は今もって内乱時には暴力団の力を借りようと考えているし、だいたい暴力団が禁止になると、担当である捜査四課や暴力団対策室が縮小され、失業者が出ると考えている。
(2)、Youtuber懲役太郎
当時(注、第一次頂上作戦や第二次頂上作戦の頃である)の警察力や法でも追い込んだにも関わらず、現在の法律でもその網を被してるのにそれ(注、解散させること)ができないというのは、本気で警察庁がやる気ないなと思いませんか?何故、潰せない。何故、潰さない。警察のお仕事が無くなっちゃうからですよね。四課(マル暴)が要らなくなっちゃいますよね。そうとしか思えませんね。何故、解散させられないのか。何故、追い込めないのか。住む所と資金源を絶って後は解散命令だけでいいんじゃないですか。それをやらないというのは、何か作為的な事を感じますね。
2、ヤクザが存在することによって警察OBの天下り先が確保される説
(1)、二代目工藤連合草野一家総長・溝下秀男(「ドキュメント・九州任侠界 クライシス21」)
世の中が平和になってきた。共産主義的なあれもないようになった。人間っていうのはもともと狩猟民族であって、狩猟のために何か獲物を持ってこないといけない。それを我々の所に持ってきたわけであって、もちろんこれに対して新法(注・暴対法のことである)を作ったかと言って、これが効果があったかというと、これはゼロに近い。新しい法律を作る度に、これは警察の天下りを作るという、結論はそれだけです。第一「暴力追放」って言うけれども、暴力は追放しちゃいかん。暴力は壊滅せんといかん。それを追放と言う形にしてね。追放というのはおかしいと思う。だから、暴追センターができて、何十億という金を民間から取り上げて、それの金利で警察OB達がぬくぬくとやっている。しかし、それらがじゃあヤクザを更生させて就職でもお世話をしようかと、そういうような例が今まで聞いたこともないし、2つばかり全国で聞いたけれども、それも結果的には昔ヤクザをやっていた人間の所に引き取ってもらったと。一般企業は一切受けてくれない。例えば、うちは締め付けが厳しいから、お前らカタギになって職業安定所に行けと。もちろん履歴書も前科は本当の事を書けと。じゃないと私文書偽造でやられるから。当然、前科者は今の社会の中では受け入れないね。それなら暴追センターに行けば、おそらく一人も斡旋はできない。今度のマネーロンダリングにしても然り、これは結局は金融機関にも食い込もうという、ただその思惑であって、今まで歴史の中で改革改革とやられてきたけれども、それが正義だったという保証はない。全く正義じゃない。論語の為政篇の中にも「国将亡必制多」という言葉があるように、やっぱり法律を作る、作れば民衆は新たな破る法律を作る、結局それのイタチごっこだということです。
(2)、二代目東組副組長・川口和秀(『ヤクザと憲法』(東海テレビ取材班、岩波書店、2016))
川口「大きな会社やったらどこでも全部警察の天下りが入ってるやん。コンプライアンスや何や言って、ええ会社であればね。・・・・・こないだもホテルに天下っている人と会うてきたけど。病院もそうやな。」
組員「僕、びっくりしました、〇〇病院。」
川口「〇〇大学?」
組員「ええ四課の関係者。」
川口「天下ってた?」
組員「声かけられて・・・・・何してまんのって。」
川口「パチンコ屋なんかは、ひどいと一軒で二人ぐらい入っているんとちゃうか。」
ー 天下りってあるんですか。
組員「それが警察の仕事ですもん、辞めてからの。仕方ないですやんか。」
川口「ただ刑務官だけは、こういう天下り先ほとんどないねん。警備員ぐらいや。かわいそうに。あんな寒いところ、立ってやな、60過ぎて立ってられへんで。」
- 天下りした企業では別の仕事をやるんですか。
川口「四課の刑事やったら市役所に天下る。それで生活保護受けてるヤクザを探して、(生活保護を)切るという仕事やねん。そやけど本音は、そういうことしたら、先の者(前任者)が許可した者を潰したりするようになるから、何もできへんのやと。そやから「何もせんことが仕事やねん」って本音言ってたわ。役所に下ってるおまわりさん、そない言ってた。じゃあ何してんねん聞いたら、いや何もしたらあかんのやと。先と後の役人に恥かかすことになるから。」
3、警察が予算を確保するためにヤクザが必要である説
(1)、二代目工藤連合会草野一家最高顧問・林武男(「ドキュメント・九州任侠界 クライシス21」))
警察内部のエリート中のエリートが警備公安関係で、この警備公安関係が予算をとるためにも、ターゲットを作らないといけない。それがヤクザだと。住専問題は中坊さんがやっているようですけれども、あの頃のマスコミの論調は、盛んに暴力団が関与したから住専問題の不良債権はなかなか解決が難しい。最近のマスコミはそういう流れが全然ありませんよね。事実と違うから出てこないんです。
(2)、元六代目山口組舎弟・後藤忠政(『憚りながら』(宝島社、2010))
(2)、元六代目山口組舎弟・後藤忠政(『憚りながら』(宝島社、2010))
ヤクザにとってこの最高裁判決(注、ボディーガード役の組員に実弾入りの拳銃を持たせていた事件について、最高裁は「黙示の共謀」という論理を使って、司忍氏、桑田兼吉氏、滝澤孝氏に共謀共同正犯の成立を認定した判決)は怖いんだ。「あなたたちヤクザ社会はこういう親分子分の暗黙の了解、あうんの呼吸で成り立っているんでしょ?だから子分が拳銃を持っていることを親分が「知りませんでした」とは言わせませんよ、「認識してませんでした」では許されませんよ」と言っているわけだから。つまり司法が、ヤクザの行動原理や精神構造にまで踏み込んできたわけだ。だからもう日本では、本気でヤクザを潰そうと思えば、潰せるところまできている。ただ、今すぐになくさないのは警察の思惑にすぎない。ヤクザがいないと困るからな、警察も。取り締まる相手がいなくなったら、予算がとれないだろ。おまんまの食い上げになっちゃうもの。けれど、その反面、(警察がヤクザを)トコトンまで追い込もうとしているのは間違いない。自分たちの退職後の食い扶持を守らにゃならんから。自分たちの天下り先を確保しようと思ったら、「暴力団追放」っていう錦の御旗を掲げて、パチンコ屋から、建設会社からヤクザを叩き出すのが一番、手っ取り早いもんでな。
4、まとめ
(1)、まとめ
・最近のヤクザに対する締め付けの強化に対して、それならもうヤクザを解散させちゃえばいいのにという意見を見かけます。しかしこれらの説をまとめると、警察は建前上は憲法21条の集会結社の自由があるからヤクザを解散させることはできないとしていますが、本音は警察官の雇用、予算、天下り先を確保するためにヤクザを解散させることができないということでしょう。したがって、ヤクザを締め付けてヤクザの構成員を減らし、ヤクザ組織をなくしても社会で行き場をなくす人がいないようにし、警察が組織を変えてヤクザがいなくても警察官の雇用、予算、天下り先の確保ができるようになったら、「結社罪」を作ってヤクザをなくすという流れになるのでしょうか。
(2)、補論 結社罪