1、意義

 ・昭和62年(1987)に民団が「納税の義務を果たしている者の当然の権利として、地方選挙への参与を要求する」と主張したように、1980年代から在日コリアンの中で地方参政権を求める声が大きくなってくる。ただし、朝鮮総連は、地方参政権は同化政策であるとして消極的であった。

2、司法

 (1)、概要

  ①、事件

   ・平成2年(1990)に金正圭(キンジョンギュ)ら11人の在日コリアンが、公職選挙法に基づく選挙人名簿に在日コリアンが登記されていないのはおかしいとして、大阪市など選挙管理委員会を提訴した。

  ②、争点

   ア)、争点

    ・地方自治法18条や公職選挙法9条は、地方公共団体の住民の選挙権を保障した憲法93条に違反しているか。

   イ)、参考条文

    憲法93条2項

     地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。

    地方自治法18条

     日本国民たる年齢満二十年以上の者で引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有するものは、別に法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する。

    公職選挙法9条

     日本国民たる年齢満十八年以上の者で引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有する者は、その属する地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する。

 (2)、判決

  ・平成7年(1995)の最高裁の判決は、主文では憲法93条2項の住民とは日本国民のことであり、在留外国人に地方参政権を保障したものではないとし、地方自治法18条も公職選挙法9条も違憲ではないとしたうえで、傍論において、「憲法は法律をもって居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至った定住外国人に対し地方参政権を付与することを禁止していない」とした。

3、立法

 (1)、最高裁判決のインパクト

  ①、意義

   ・平成7年(1995)の最高裁判決が出され時、自民党、社会党、さきがけの連立政権であった。自社さ連立政権は定住外国人について参政権を与えるかどうか議論を行った。

  ②、相互主義

   ・この議論の中で多数派を占めたのが、相手国がその国に在籍する日本人に参政権を与えている場合は日本でもその国の外国人に参政権を与えるが、相手国がその国に在籍する日本人に参政権を与えていない場合は日本でもその国の外国人に参政権をあたえないという相互主義の立場であった。この立場に立てば、当時韓国においては韓国にいる日本人に参政権を与えていなかったので、在日韓国人にも与えるべきではないという結論となる。

 (2)、立法されず

  ①、盛り上がり

   ・平成10年(1998)に来日した金大中大統領が国会演説で「在日韓国人二世三世は、日本で税金を納め、大きな貢献をしている。だから地方参政権を与えてほしい」と述べた。これに触発されて、野党である民主党、共産党、公明党から定住外国人に地方参政権を与えようとする試案が提出され、平成11年(1999)には当時の自民党野中広務幹事長が中心となり、与党三党は定住外国人に地方選挙への投票権を認める法律を成立させることにいったん同意をした。

  ②、抵抗

   ・一部国会議員が定住外国人に参政権をあたえることに強く抵抗し、対案として在日コリアンが日本国籍を取得しやすくする法案(日本国籍取得緩和法案)を提示した。

 (3)、韓国における永住外国人地方選挙法案の成立

  ①、意義

   ・平成17年(2005)にアジア初の永住外国人地方選挙法案が韓国で成立した。これによって、日本が在日韓国人に地方参政権を付与しない根拠とされていた相互主義の立場は論拠を失ったことになる。

  ②、批判

   ・平成17年(2005)の段階で地方参政権付与の対象となった在韓永住日本人はわずか51人しかいない。他方、日本に永住する在日コリアンは約54万人、うち選挙権を有することができる20歳以上の在日コリアンは約49万人とみられており、とても対等な参政権相互付与とはいえない。

<参考文献>

 『歴史教科書 在日コリアンの歴史』(在日本大韓民国民団中央民族教育委員会、明石書店、2006) 
 『大嫌韓時代』(桜井誠、青林堂、2014)