1、抗争

 昭和21年 広島県広島市 村上組vs岡組

 昭和27年 広島県広島市 村上組vs岡組 

2、第一次抗争

 (1)、終戦直後の広島市

  ①、戦前の広島市

   ・戦前の広島市では、渡辺長次郎率いる渡辺組や近藤一家など老舗博徒組織が多数存在していた。しかし、原爆の投下や空襲によって、多くの親分が亡くなった。

  ②、岡敏夫の躍進

   ・戦後、広島市に勢力を築いたのは、岡敏夫率いる博徒の岡組であった。もともと岡は、渡辺長次郎の舎弟・天本菊美から盃をもらって渡世入りした。終戦直後は警察力が不足していたので、警察は天本一家に広島駅の警備を依頼し、その代わりに広島駅前で賭場を開帳することを黙認した。そしてその警備隊長となったのが岡であり、岡は駅前に土建業の事務所と賭場を兼ねた「岡道場」を開設し、資金源と勢力を強めていった。

  ③、村上組と岡組の衝突

   ・村上三次率いる村上組は、テキヤ組織である。村上組は終戦直後に広島駅前にいち早く闇市を開設し、庭場とした。博徒岡組とテキヤ村上組は縄張りが合わさるのでやがて対決を繰り返すようになった。そして、村上組の対岡組戦闘部隊の行動隊長が、組長の実子であり、映画「仁義なき戦い」では千葉真一が演じた大友勝利のモデルである村上正明であった。

 (2)、経過

  ①、岡道場襲撃事件

   ・昭和21年11月18日、村上正明率いる決死隊は岡道場に殴り込みをかけた。

  ②、村上組組員射殺事件

   ・報復として岡組は、同年12月3日に幹部の網野光三郎と原田昭三が村上の隠家を襲い、不在だった村上正明の代わりに村上組組員を射殺した。

  ③、殺人鬼・山上光治

   ・報復として村上組は、再び岡道場を襲撃した。これに対して、岡組では「殺人鬼」山上光治が迎撃し、襲撃してきた村上組組員を射殺した。たじろいだ村上組組員は逃走したが、山上はさらに追って村上組幹部宅で村上組組員を射殺した。しかしその後、山上は警察に追われ、自決した。もともと山上は警官を殺害して無期懲役で服役していたが脱走し、無断で村上組の庭場で露天を開いている所を、村上組組員に見つかり、暴行を受けて瀕死の重傷を負った。このことから、村上組に対して復讐の鬼となったのであった。

 (3)、終結

  ・昭和24年4月、団体等規制令が発布され、両組織は強制的に解散となり、抗争も和解が成立し、双方死者5人、警官に追われて自決したもの1人(山上光治)で終結した。

3、第二次抗争

 (1)、意義

  ・昭和27年、団体等規制令が廃止された。これによってヤクザは再び復活し、広島でも岡組、村上組が再建された。今度は、広島競輪場の利権をめぐって、両組織は抗争を始めた。

 (2)、経過

  ①、村上正明銃撃事件

   ・酒場のいざこざから、村上組組員が岡組組員を刺す事件が起こった。これに怒った岡組は、理髪店で村上正明を銃撃した。

  ②、ゲリラ戦に出た村上組

   ・劣勢の村上組は、岡組を皆殺しにするために、露天商の組員以外は地下に潜る作戦に出た。村上組組員は、岡組組員を尾行し、一人になったところを殺すというゲリラ戦に出て、昭和27年11月から昭和28年1月18日に至るまでに計15回の抗争事件が引き起こされた。

  ③、岡組幹部射殺事件

   ・あまりにも激しい抗争に、岡組が手に入れた競輪場の利権を白紙撤回する案が浮上したが、実態的には何も変わらなかったために、再び村上組の攻撃が始まり、岡組幹部・高橋国穂が村上組組員によって射殺された。

  ④、村上組の壊滅

   ・岡組は権力とがっちり食い込んでいたために、警察は村上組のみを徹底的に検挙していった。これにより、組長の村上三次や行動隊長の村上正明など幹部連中が次々と検挙され、村上組は崩壊し、広島市は岡組のものとなった。

4、映像

 (1)、仁義なき戦い 広島死闘篇

  ・俳優の高橋克実さんが、以前この作品はいろいろな物語として見ることができるといったような事をおっしゃっていました。村岡組(モデルは岡組)と大友組(モデルは村上組)の抗争という普通のヤクザ映画としてだけではなく、北大路欣也さん演じる山中正治(モデルは山上光治)が組織に入り翻弄され、殺人鬼となり最期は追い込まれて自殺する哀愁の物語、さらには山中正治が梶芽衣子さん演じる村岡組組長の姪・上原靖子と恋に落ちながらも成就しない悲哀の物語などです。ヤクザ映画はほとんど男しか見ないので、恋愛のストーリーは少ないです。恋愛の過程を見せられるよりも、とりあえずSEXということで、女性が出てくるのは、SEXシーンだとか、夫が襲撃されて「あんたー」と叫ぶシーンだとかのみでしょう。しかし、この作品は村岡組と大友組の抗争の中に恋愛のストーリーも盛り込みながらも、男が見ても楽しめる作品になっています。そして、もう一つこの作品で忘れてはならないのが、千葉真一さん演じるクレイジーな大友勝利(モデルは村上正明)でしょう。作品中1、2を争う人気キャラになったそうですが、大友勝利のインパクトはすごいです。その後、「沖縄やくざ戦争」の国頭正剛(モデルは新城喜文)とか、「北陸代理戦争」の金井八郎(柳川次郎)とか、クレイジーなヤクザ役といえば千葉真一さんです。

 <参考文献>

 『昭和のヤバいヤクザ』(鈴木智彦、講談社、2019)
 『戦後ヤクザ抗争史』(永田哲朗、 イースト・プレス 、2011)
 『血と抗争 山口組三代目』(溝口敦、講談社、1998)