今回は、『新装版 ヤクザ崩壊 半グレ勃興 地殻変動する日本組織犯罪地図』(溝口敦、講談社、2015)よりヤミ金の五菱会事件についてまとめます。

1、意義

 ・平成15年(2003)前後に社会問題となったヤミ金は、五代目山口組五菱会が中心となって手掛けたヤクザのシノギであった。

2、五菱会とは

 (1)、前身の美尾組

  ・美尾組は美尾尚利によって創設された。美尾はもともと清水一家ゆかりの組にいたが、清水一家が解散したことから、一本独鈷で美尾組を結成し、運営していた。その後、縁あって黒澤明組長の山口組黒澤組の舎弟となり、黒澤組長の引退を機に、山口組の直系若衆に引き立てられた。

 (2)、五菱会へ

  ①、高木康男とは

   ・高木康男はもともとは稲川会系組織にいたが、ヤクザをやめて倒産整理屋となった。倒産整理屋としてのノウハウを持ち、それで巨額の財をため込んだ高木を熱心にスカウトしたのが美尾であった。高木は美尾組の組長代行としてヤクザに戻った。

 参考)、倒産整理屋→ ヤクザと経済 倒産整理屋

  ②、五菱会

   ・高木は美尾組の若頭となり、陣内唯孝と名乗って陣内組を結成した。その後、美尾が平成14年(2002)に引退したのを機に、高木は美尾組を継承し、「五菱会」として山口組の直系若衆となった。当時の山口組組長は五代目の渡辺芳則であり、五代目の「五」と山口組の菱の代紋の「菱」から名付けられたものである。その背景には、多額の礼金が上納されたものとみられる。

 (3)、五菱会とヤミ金

  ①、梶山進とは

   ・五菱会の闇金融組織統括経営者は、「ヤミ金の帝王」と言われた梶山進であるとされる(なお、溝口敦は真のヤミ金の帝王は高木であるとする)。梶山は、高木と不良仲間であった。中学卒業後にヤクザとなり東京の新宿でヤミ金を始めた。一時ヤクザをやめるが、その後高木と一緒に美尾組に加入し、高木が陣内組を作ると、その副組長となった。高木が美尾組を受け継ぎ五菱会を結成した時に、梶山はヤクザをやめて、ヤミ金に専念するようになった。

  ②、五菱会の異質性

   ・この当時、ヤミ金は山口組の他組織も、また住吉会や稲川会系の組織も手掛けておらず、五菱会独自のシノギであった。五菱会の組員は同時にヤミ金会社の社員となって、給料が支給され、その給料から組へ上納金が払われた。このようなシステムで、五菱会は傘下80団体、組員総数600人以上の巨大組織へとなっていった。

 (4)、清水一家へ

  ・平成15年(2003)、高木は組織犯罪処罰法違反の疑いで、梶山は出資法違反の疑いで逮捕された。五菱会は美尾組に改称され、高木出所後の平成19年(2007)に、六代目清水一家と改称された。

3、ヤミ金のシステム

 (1)、由来

  ・ヤミ金の由来は、大阪の日掛け金融であるといわれている。日掛け金融とは、金を商店主などに貸して、毎日訪ねて金利を回収して歩くものである。

 (2)、システム

  ①、利率

   ・ヤミ金の利率は、トイチ(10日に1割)からどんどん上がっていき、トサン(10日で3割)、トゴ(10日で5割)、トナナ(10日で7割)となっていった。

  ②、利息の天引き

   ・ヤミ金は、客に貸し付ける時に、金利は前払いされる。例えば、4万円貸し付けたとすれば、金利の前払いとして2万円が引かれ、実際には2万円しか渡されない。正確には、その他書類代や審査代などの名目で数千円がさらに差し引かれる。

  ③、なるべく元本の返済を拒む

   ・返済日に全額返済できない客は、ジャンプといって利息だけ支払って返済を先延ばしにすることができる。元本が返済されてしまうと利息がとれなくなってしまうので、ヤミ金業者はなるべく客にジャンプさせようとした。

  ④、少額を貸し付ける

   ・高額を貸し付けると、さすがに客も高金利で返済できないのではないかとの危惧感を抱いてしまうので、貸し付ける限度額は10万円以内であった。少額であれば、たとえ高金利でも客は返済できるであろうと思うからである。

  ⑤、グループを形成する

   ・ヤミ金業者はグループを形成して、顧客情報を共有した。これによって、ヤミ金業者甲から借りた客が返済日になると、グループ内の別のヤミ金業者乙が客に貸付というのを繰り返すことにより、客から金を搾り取った。

  ⑥、多重債務者をターゲットとする

   ・五菱会は、最初は主婦に貸し付けていたが、その後ソープ嬢やソープ店の男性従業員にへと拡大し、さらには名簿屋から買い集めた多重債務者リストをもとに多重債務者へと貸し付けていった。一般的に、ヤミ金業者は多重債務者を狙って貸し付ける。

  ⑦、顧客の周りの人間から取り立てる

   ・多重債務者へ貸し付けても返済できない場合が多い。よって、ヤミ金業者は、多重債務者の周辺の人間、例えば、家族、親戚、職場の同僚などを脅して、強引に回収した。当然、法律上は借主の周辺の人間に返済義務はない。

  ⑧、普通の若者が非情な取り立てをするようになる

   ・ヤミ金の店長や営業部員の大半は、ヤクザではなく、アルバイト雑誌をみて高給に引かれてやってきた若者であった。ヤミ金は、顧客と直接面談して交渉することがなく、電話越しの関係である。よって、最初は罪悪感があってもだんだん感覚がマヒして、電話越しの顧客が自殺に追い込まれるまで苦悩をしても、非情に取り立てることが可能となった。

  ⑨、少額で開業が可能である

   ・ヤミ金は、元手に1000万円ほどがあり、携帯電話さえあれば、オフィスが不要である。よって、開業資金や運転資金をそれほど要しない。

 (3)、逮捕へ

  ①、巨万の富を形成する

   ・五菱会は、梶山を頂点に、執行部ー社長ーブロック長(統括)-店長ー従業員というシステムが構築されていた。最盛期には、全国に27系列、1000店舗を展開し、年間数千億円の収益を上げていたという。

  ②、逮捕

   ・ヤミ金被害が深刻になってくるにつれて、警察も相談に来た被害者を「借りたものは返しましょう」と諭す方針から「違法な取り立てを直ちに中止するように、電話による警告等を積極的に行う」と言う方針へと改めた。平成15年(2003)、梶山は出資法違反の疑いで逮捕された。梶山から数回にわたって約5000万円相当の金融債券を受け取っていたとして、高木も組織犯罪処罰法違反の疑いで逮捕された。しかし、収益は数千億円と言われるが、確認できた金は、日本国内では2億円相当の米ドル札が、さらにスイス当局が約51億円相当の預金口座を凍結したにすぎない。

4、その他のヤミ金被害

 (1)、ヤミ金三人心中事件

  ・ヤミ金被害を社会に印象付けた事件として、八尾のヤミ金三人心中事件が有名である。これは八尾市の老人3人が、ヤミ金「アクセス」から3万円(1週間で5割の利息、利息は前払い)を借りた。この後、「アクセス」そして「アクセス」と同じグループのヤミ金「友&愛」によって理不尽な貸し付けと取立を繰り返され、最期はJR踏切近くの線路に丸く輪になってしゃがみ込み、電車にはねられて自殺した事件である。

 (2)、逮捕へ

  ・「アクセス」や「友&愛」の統括者の男は、平成20年(2008)に出資法違反で逮捕された。このグループは多重債務者に集中的に貸し付けて、全国約5万8000人から約50億円を取り立てていた。また、ヤミ金の手法や、顧客が重なることから、五菱会との関連性も疑われた。

5、振り込め詐欺はヤミ金業者が作った

 ・判例によってヤミ金業者から借りた金は、元金も含めて返還する必要がないことが確定された。よって、ヤミ金に携わっていた者たちの一部は、どうせ返さなくてよいのであれば、貸してないカネを請求してやろうということで、振り込め詐欺へと「進化」していったのである。この中で、ヤミ金時代に蓄えられたノウハウが生かされていった。